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『機動戦士ガンダム』……最古のビデオ(劇場版三部作)、LD(TV版最終2話)【雑誌・ムックの画像、カセットの音声】


『機動戦士ガンダム』劇場版三部作 一年戦争をビデオソフト3本で駆け抜ける

80年代、TVアニメ全話がビデオソフトで販売されるということはほぼありませんでした。
あるのは、劇場版や総集編、または厳選された数話を収録したビデオソフト。

たとえば80年代初頭、爆発的人気のなかにあった『機動戦士ガンダム』(1979~80)は、TV版を再編集した劇場版三部作(1981~82)のビデオソフトが82年に発売されました。
家庭で録画した画質の粗い映像ではない、画質のきれいなビデオソフトで好きなとき、好きなだけ鑑賞することができるという「夢」が現実のものになりました。

機動戦士ガンダムI   17,600円(137分)【VHS】【βは14,800】
機動戦士ガンダムII  17,600円(134分)【VHS】【βは14,800】
機動戦士ガンダムIII 14,800円(140分)【VHS、β】
(参考:『アニメック』1984年1月号)

いまの感覚からすると、驚異的な高値です。
いまだと、たとえばDVDの劇場版メモリアルBOXは定価18,900円。
かつては、三部作をビデオソフトで観るには50,000円【βだと44,400円】の出費が必要でした。

しかし、当時のビデオソフトの希少価値はいまと比べものになりませんでした。
ビデオデッキの所持率もさほどでなく、ビデオソフトのラインナップも充実しているには程遠い状況。
そんな時代、手もとに憧れの作品のビデオソフトを置くことはステータスでした。
観たいときに何度でも高画質のビデオソフトを観るというのは、新鮮な喜びをもたらしてくれました。

当時のビデオソフトを手もとに置くというのは、大げさに言えば「選ばれた者の恍惚(こうこつ)」すら味わわせてくれました。
アムロやシャアたちの物語を411分(6時間51分)に凝縮した劇場版三部作を手もとに置き、心ゆくまで一年戦争を駆け抜ける。
そんな夢のような贅沢が現実のものになったのです。




『機動戦士ガンダム』最終2話 ア・バオア・クーの戦いをLDソフトでもう一度、そして何度でも

おなじ82年、ビデオではなくLD(レーザーディスク)ですが、厳選された話数を収録した『機動戦士ガンダム』のLDソフトが発売されています。
第42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」
第43話「脱出」(最終回)
の2話です。

『機動戦士ガンダム』最大の戦いである最終決戦「ア・バオア・クーの戦い」を描いた42話、43話が高画質のLD映像で楽しめるのは、当時のファンの人たちにはさぞかしたまらなかったことでしょう。
たしかに、高画質のLDソフトで全話鑑賞するのがベストでしょうが、全話LDソフトは存在しておらず望むべくもありませんでした。
それなら……1話でも2話でも高画質のTV版『機動戦士ガンダム』を好きなときに好きなだけ観たいというのはファンの真情としては当然のことでしょう。
あの、一年戦争伝説の「ア・バオア・クーの戦い」TV版が観たいとき、いくどでも観られるのです。
劇場版とはまた違った魅力のあるTV版「ア・バオア・クーの戦い」が手もとに。
TV版最終2話に思い入れのある人たちにはこたえられない逸品だったでしょう。




ビデオが普及していなかった時代、雑誌やムック、カセットテープはアニメを楽しむための頼れる相棒だった、ましてやビデオソフト、LDソフトは……

だいたいにおいて、80年代初頭~中盤くらいまでは、ビデオデッキも普及しておらず、ビデオソフトやレンタルビデオの充実度もいまとくらべるとかなり厳しいものでした。
そんな便利とは言えない環境のなか、当時の『機動戦士ガンダム』ファンの方たちは、少しでもアニメ作品に近い『機動戦士ガンダム』を目いっぱい楽しもうとしていました。
かつて読んだ『ラポートデラックス 機動戦士ガンダム 宇宙世紀』(アニメック特別編集 ラポート発行)などには、その涙ぐましい努力……いや、喜びがさまざま紹介されていました。
たとえば……。

音声をカセットテープに録音するとか。
もちろん、映像はありません。
しかし、ビデオが普及していなかった当時、それは『機動戦士ガンダム』を楽しむ有力なツールだったのです。
アムロやシャアやフラウやセイラたちの声。
華麗な、あるいは緊迫感を盛り上げるBGM。
ビームライフルの発射音やマシンガン、バズーカなどの発砲音、MS、艦艇などの推進音や爆発などの効果音。
それらを耳にしながら、目を閉じてまぶたの裏に『機動戦士ガンダム』の光景を思い浮かべるのは、ラジオドラマ『ガンダム』のような興奮があったことでしょう。

作中のダイジェスト画像が豊富な雑誌や書籍を見ながら、『機動戦士ガンダム』に思いをはせるという手もあります。
『OUT』(みのり書房)や『アニメック』(ラポート)などのアニメ雑誌、『機動戦士ガンダム記録全集』(日本サンライズ)や『テレビマガジンデラックス 機動戦士ガンダム ストーリーブック』(講談社)、『ロマンアルバム・エクストラ 機動戦士ガンダム』(徳間書店)などなど。

なにしろ、かつての雑誌やムックの画像の役目の1つは、ビデオやDVD、BDなどが普及していない時代にいつでも「作中の絵」を楽しむことでした。
ビデオデッキをもっていたとしても、ビデオソフトのラインナップはかなり限られていて、レンタルビデオは店舗が少なく、あったとしてもお店の品ぞろえは薄く、しかも、レンタル料金ですらけっこうバカみたいに高価でした(レンタル1本800円などはザラで、1500円なんてのもあった記憶が……)。

そのような状況ですから、作中の画像などは重宝されました。
なかには、『機動戦士ガンダム』が放送されない地域、見逃してしまいそのあと再放送されない地域もあり、その方たちにとっては雑誌やムックのダイジェスト画像が「初めて見るガンダム」であったりもしたわけです。

そんななか、劇場版三作品をビデオソフトで、TV版最終2話をLDで鑑賞することの愉悦というのはいかばかりであったでしょう。



『機動戦士ガンダム』(1979) 人気が出たのは再放送? 本放送終盤?


『機動戦士ガンダム』 本放送は視聴率低迷

『機動戦士ガンダム』はアニメ史上に残る大ヒットを記録しました。
しかし、本放送は多難な船出でした。
初回放送時の視聴率は名古屋地区で平均9.1%、関東地区で平均5.3%。
79年当時、視聴率15~20%のアニメ作品がかなりあったことを考えると、かんばしい数字でないことはあきらかです。




『機動戦士ガンダム』 打ち切り

勧善懲悪が定番だった当時のロボットアニメにおいて、戦争という難しい題材をテーマにした『機動戦士ガンダム』は子供受けが良くありませんでした。
子供受けしないといえば、内気なアムロは子供から見れば頼りないお兄ちゃん。
シャアはシャアで、「陰気なキャラクター」、だから視聴率が低迷しているのだとスポンサーからクレームを受ける羽目に。
そのため、二度と登場の機会のない永久追放処分として、第12話「ジオンの脅威」においてガルマを護ることができなかったという名目のもとに体よく左遷されたとも言われています。
(しかし、ファンの人たちからの熱狂的な抗議によって第26話「シャアの復活」から再登場)

玩具の売れ行きも低調で、スポンサーのクローバーは打ち切りを決定しました。
全52話から43話へと短縮されてしまったのです。




『機動戦士ガンダム』 ガンダム人気の起源

しかし、『機動戦士ガンダム』の人気は上向いていきます。
しかも急速に。
マニア層には絶大な人気が当初からありましたが、それが一般にも広がっていったのです。
いつのころからなのか?
これには、少なくとも2説あります。

☆本放送終盤
☆再放送




『機動戦士ガンダム』 再放送で爆発的人気……

一般に広く流布しているのは再放送説。

放送終了後も、アニメ雑誌において『機動戦士ガンダム』は特集されていました。
子供には人気がなかった『ガンダム』でしたが、アニメ雑誌を読むような中高生以上の層には熱狂的な支持を受けていたのです。
これら中高生の口コミなどで『ガンダム』への関心が高まり、再放送で平均視聴率10%超え、その後の再々放送などでは81年の関東地区で平均17.9%、82年には名古屋地区で平均25.7%/最高視聴率29.1%にまで到達しました。

本放送終了(1980年1月26日)からほぼ6ヵ月後の1980年7月19日、ガンダムのプラモデルが発売されました。
「1/144 ガンダム」を皮切りに、続々とガンプラが世に送り出されていきます。
ガンプラは爆発的な売り上げを記録。
それまでガンダム関連で発売されていた純然たる児童向けおもちゃとはちがい、兵器としてのリアリティーがあるちょっと大人なガンプラは中高生以上にも受け入れられました。

かつてはその難解さに背を向けていた子供たちも、中高生以上のファンの人たちの狂熱に引っ張られるかのように『ガンダム』とガンプラのとりこになっていきました。




『機動戦士ガンダム』 本放送終盤には人気……

しかし、その再放送説は勘ちがいやデマだとするのが本放送終盤説です。

たしかに前半の視聴率は満足のいくものではなく、いったん打ち切りが決まりました。
しかし、終盤になり人気が出て、スポンサーのクローバーから延長の打診すらなされていたといいます。
(一説には、79年の年末商戦で「DX合体セット」が好調な売れ行きを示し、クローバーは慌ててサンライズに延長を打診したともいいます)
ただ、すでに打ち切り前提の構成で物語は進んでいて修正は困難、次の番組の準備もあり、延長のオファーには応じられなかったのだそうです。

これは事実なのでしょうか?

それを裏打ちするかもしれない証拠もあります。
バンダイは、1979年12月、『機動戦士ガンダム』のプラモデル商品化権を取得しました。
『機動戦士ガンダム』はすでに終盤。
打ち切りが決定したあとにです。
しかし、バンダイは低視聴率による打ち切り決定後、人気が盛り上がっていくことを実感し、売れると確信して商品化権を取得したといいます。
バンダイは、『機動戦士ガンダム』終盤にはガンダム人気にそれなりの手応えをつかんでいたようなのです。
そして、1980年7月19日に初のガンプラを発売し、そのもくろみどおりにガンプラを大ヒットさせました。



『機動戦士ガンダム』を支えた小さな巨人……アニメック

また、『機動戦士ガンダム』の人気を盛り上げた立役者の一人として、本放送のときから一貫して『ガンダム』商品を展開していたラポート(2003年 倒産)の存在も忘れてはならないでしょう。
ラポートは、いまはなきアニメグッズ専門店「アニメック」(2007年12月末 新規受注を停止)を経営し、いまはなきアニメ雑誌『アニメック』(1987年2月 休刊)を発行していました。

アニメファンの盛り上がりをいち早くつかんだラポートは、本放送時すでに積極的にガンダム商品を展開、アニメ雑誌『アニメック』でも頻繁に特集を組みました。

発行部数はさほどではありませんでしたが、マニア度の濃い(濃すぎ)『アニメック』は熱心なファンの盛り上がりに少なからぬ貢献をしました。
発行部数の少ない『アニメック』、小さな巨人として『ガンダム』の縁の下を良く支え続けました。




『機動戦士ガンダム』 再放送/本放送終盤

おそらく、再放送説のほうが圧倒的に有名でしょう。
わたしもいままで目にしてきたのは、再放送でファン層以外にも人気に火がついたというものばかりでした。
しかし、本放送終盤のさまざまな動きを見てみると、本放送終盤説も見過ごせないのかもしれないなあ、などと思いなしてしまうのです。



シャア・アズナブル……人気低迷の戦犯からアニメ史上に残る名キャラクターへ(『機動戦士ガンダム』)


シャアという陰気なキャラクター

シャアは、かつて『機動戦士ガンダム』(1979)本放送の低視聴率の一因とみなされたことがあります。
スポンサー(タカラかクローバー)が低視聴率に業を煮やし、「シャアという陰気なキャラクターがいけない」と難くせをつけてきたのです。

シャアが陰気?
あれは、かっこいい暗さなのでは?

しかし、スポンサーは「シャアという陰気なキャラクターがいけない」とクレーム。
かくして、シャアは左遷されることに。
ガルマの死の責任ではなく、視聴率低迷の責任を取らされての左遷です。

それどころか、一説に、不要になったシャアは殺される予定だったとも……。
(シャアを殺そうとしていた富野由悠季を、名古屋テレビの番組プロデューサーである関岡渉(せきおかわたる)が止めたという説あり【真偽不明】)

殺される予定!
あのシャアが。
かつてアニメ界で最高の権威をもっていた「アニメグランプリ」(『アニメージュ』主催)において、80年代、歴代ベストワンキャラクターを3度受賞したシャア・アズナブルが。
(1980年下半期~89年までの80年代の合計10回のうち、歴代ベストワンキャラクターを受賞したのは「シャア」「ルパン三世」「クラリス」「ナウシカ」の四人だけです)
(ちなみに、『アニメージュ』で宮崎駿の漫画『ナウシカ』が連載していた影響もあるのでしょうが、ナウシカは97年までに12回受賞。
ルパン三世は、これも『アニメージュ』と関係が深い宮崎駿監督『カリオストロの城』などの影響もあるかもしれませんが、シャアを超える5度の受賞を果たしています)

しかし、その「勝利の栄光を君に!」はのちのはなし。
79年の時点では、シャア=陰気=低視聴率の一因=シャアは人気がない、とスポンサーには見なされていたのです。




復活のシャア

『機動戦士ガンダム』は大ヒットしました。
しかし、初めからではありません。
初回放送時の視聴率は名古屋地区で平均9.1%、関東地区で平均5.3%。
79年当時、視聴率15~20%のアニメ作品がけっこうあったことを考えると、かんばしい数字でないことはあきらかです。

しかし、このあと『機動戦士ガンダム』の人気は上向いていきます。
いつのころからか?
これには、少なくとも2説あります。
☆本放送終盤
☆再放送
再放送説が一般に広く流布していますが、本放送終盤にはすでに再延長が打診されるくらい(しかし、物語の構成がすでに再延長に修正すること不可能であったため、かつ次の番組の準備もあり、その打診には応じられなかった)には人気があったのだという本放送終盤説も主張されています。

いずれにしろ、本放送前半中盤まで人気が低迷していたのは間違いなく、そのなかでも初期の戦犯として挙げられたのが「陰気な」シャアでした。

しかし、そのため左遷され物語から姿を消すと(12話『ジオンの脅威』)、「なぜシャアを出さない」という抗議が殺到。
そこで26話『復活のシャア』で、シャアは再び物語へと戻ってきました。

シャアは人気低迷の原因ではなかったのです。
それどころかファンから愛されていたのです。




アニメグランプリの歴代キャラクター部門におけるシャア

じつは、第1話終了直後にテレビ局のほうにたくさんのハガキが寄せられ、その多くが「シャアがかっこいい」という内容のものだったともいいます(番組プロデューサー/関岡渉・談)。
これが事実とすれば、人気低迷が「陰気な」シャアのせいだとするスポンサーの判断は正確なものであったのでしょうか?

しかし、シャアの人気は『機動戦士ガンダム』という一作品の枠内でおさまるものではありませんでした。

かつて、「アニメグランプリ」は賞としてアニメ界最高の権威を持っていました。
雑誌『ニュータイプ』に追い抜かれるまで『アニメージュ』はアニメ雑誌の人気最高峰に位置していました。
その『アニメージュ』が主催する「アニメグランプリ」は、『アニメージュ』の読者ならずとも注目していました。

この「アニメグランプリ」に歴代ベストワンキャラクターなる部門があります。
これは、一年間のうちに放送されたり公開されたりしたアニメが対象の他の部門(たとえば、グランプリ作品、キャラクターなどの各部門)とちがい、年月に関係なく投票されるキャラクターの賞です。

数多くいるアニメキャラクターのなかから選ばれるわけですから、たいへんな激戦をくぐり抜けて栄冠をつかむことになるわけですが、歴代キャラクター部門が新設された1980年下半期の第3回アニメグランプリから1982年度の第5回まで三連覇を果たしたのがシャアでした。

参考までに1980年下半期から85年までの歴代キャラクターをしるしておきましょう。
(抜粋参照:第9回アニメグランプリ【1987・4・18 日本武道館】のパンフレット)




アニメグランプリ(歴代キャラクター部門)【80年下半期~85年度】/シャア

☆80年下半期
1位 シャア・アズナブル 2250
2位 キャプテン・ハーロック 1138
3位 アムロ・レイ 1049

☆81年度
1位 シャア・アズナブル 1447
2位 キャプテン・ハーロック 1166
3位 島村ジョー 809

☆82年度
1位 シャア・アズナブル 1880
2位 ルパン三世 1205
3位 クラリス 1123

☆83年度
男/1位 ルパン三世 2207
女/1位 クラリス 2362

☆84年度
男/1位 ルパン三世 3252
女/1位 クラリス 2710

☆85年度
男/1位 ルパン三世 2462
  2位 シャア・アズナブル 1011
  3位 諸星あたる 474
女/1位 ナウシカ 2346
  2位 クラリス 1443
  3位 ラム 854


【補足】
☆83年度
男/1位 ルパン三世 2207
  2位 シャア・アズナブル 1483
  3位 明神タケル 1035
女/1位 クラリス 2362
  2位 ラム 1228
  3位 ミンキーモモ 1213
☆84年度
男/1位 ルパン三世 3252
  2位 シャア・アズナブル 1050
  3位 クラッシャージョウ 637
女/1位 クラリス 2710
  2位 ナウシカ 1219
  3位 ラム 1122


(ただし、年間の「キャラクター部門」ではシャアはけっこう苦戦しています。
79年度~82年度まではTVシリーズや劇場版で、シャアは投票対象でした。
79年度の第1回アニメグランプリでは2位アムロ、3位シャア。
80年度は1位シャア、2位アムロで栄冠に輝きます。
しかし、80年下半期から82年度までの3年間は(資料でわかる範囲の)3位以内にランクインしていません。
さらに85年は、『Zガンダム』でシャア(クワトロ)は男性部門2位。
1位の『タッチ』上杉達也におよびませんでした)




シャアという男

スポンサーから「シャアという陰気なキャラクターがいけない」と人気低迷の責任を負わされて左遷させられた(あるいは殺されるところだった)赤い彗星は、再登場するはずではありませんでしたが復活し、それどころか80年代には全アニメキャラクターのなかでも屈指の有名人気キャラクターになりました。
しかし、熱心なファンの働きかけと、それなりの運がなければ、シャアは「ガンダムの最初のころに活躍した美形で凄腕の赤い彗星とかいうMSパイロット」としてごく一部のアニメファン、ガンダムファンのあいだに名を留められるだけの存在になっていたでしょう。

「まだだ、まだ終わらんよ!」
じっさい、シャアは『ガンダム』【12話/ジオンの脅威】でまだ終わらなかった男なのです。
それゆえ、シャアは羽ばたくことができました。
赤い羽根でアニメの大空を。



エルメス……悲劇が付きまとうMA【ララァ・スン、クスコ・アル】(『機動戦士ガンダム』)


エルメス……悲劇、悲劇、悲劇

MAN-08 エルメスは、3機が試作されました。
エルメスは、一年戦争時代(U.C.0079)のニュータイプ専用MAです。

『機動戦士ガンダム 公式百科事典』(講談社、2001)からエルメスの項を抜粋してみます。


「なお、MAN-08は試作機が3機製作され、ララァ・スン少尉が搭乗したものは2号機であるという。
1号機は、パイロットが機体の要求するニュータイプ能力を有していなかったため、暴走したビットの攻撃で自爆したとされる(テスト中にも多数のビットが制御を失い、行方不明となったという)。
また、3号機はクスコ・アル少尉によって操縦され、実戦に投入されたというが、これは信憑性に欠けるといわざるを得ない。
この説によればクスコ・アル少尉はシャア・アズナブル大佐の指揮したニュータイプ部隊の一員であったことになっているが、その存在は確認されておらず、ララァ・スン少尉出撃前後の状況から見ても、実在は甚だ疑わしい」


クスコ・アル少尉は、小説版『機動戦士ガンダム』(著・富野喜幸(現在の富野由悠季))に登場したエルメスのパイロットです。
小説版設定ですので、アニメ作品を基準にする『ガンダム』の公式設定からは「信憑性に欠ける」とコメントされているわけです。

なお、クスコ・アルの搭乗したエルメスは、小説版だと2号機、MSV設定では3号機でした。
ララァの乗るエルメスが2号機というのはMSV設定です。
MSVでは1号機/ビットの攻撃で戦死したパイロット(名前不詳)、2号機/ララァ・スン、3号機/クスコ・アルということになります。

この3人、皆が皆、不幸な運命をたどることになります。




エルメス1号機のパイロット……不足していたニュータイプ能力

1号機のパイロットは、実戦でなく実験中に戦死しました。
ニュータイプ能力者ではありましたが、エルメスを制御できるほどの能力には恵まれず、本来なら自分の強力な武器になるはずのビットの攻撃を受けて亡くなりました。

なまじ、ニュータイプ能力があったがための悲劇と言えましょう。




ララァ・スン、クスコ・アル……エルメスでの戦死、性的な被害

ララァとクスコ・アルは、それぞれ、アニメ版と小説版を出自とするキャラクターですが、特徴的な共通点が2人にはあります。

まず一つ目、二人ともエルメスに搭乗して戦死しています。
相手は二人ともアムロ・レイ。
それぞれ、アニメ版のアムロと小説版のアムロに撃破されています。

二つ目。
ララァもクスコ・アルも、性的な被害者でした。
クスコ・アルは、連邦の兵士に性的暴行を受けた過去があるようです。

ララァは、インド地区の売春宿で生きるために身をひさいでいたといいます。
むろん、ララァが望んでの売春ではないでしょう。
孤児である貧しい少女のララァは、身をひさいで生計をたてなければならなかったのです。
ただ、ララァは売春宿にはいたものの、客を取る前にシャアによって救い出されたという説もあります。
また、公式であることを謳っている(とはいえ、本当に公式なのかは不明ですが)『GUNDAM FACT FILE No.1』(デアゴスティーニ、2004)では、「むやみやたらに客を取らされるようなことはなく、相応に自尊心を持てるような環境だったようだ」とのことです。
この文言はあいまいです。
「むやみやたらに」ではないものの「客を取らされ」てはいたとも読めますが、いかがでしょうか?
それとも、「むやみやたらに」客の相手をさせるようなひどい待遇は受けず、まったく「客を取らされるようなことはな」かったということなのでしょうか?
「相応に自尊心を持てるような環境」の「相応」の「自尊心」というのも、「相応」の程度があいまいで、まったく「客をとらされ」なかったので「自尊心を持て」たのか、「客を取らされ」たものの人数や性交の態様においてひどい条件ではなかったので「相応に自尊心を持て」たのか、いまひとつ不明です。

もし、「客を取らされ」ていたのであれば、そうひどい環境に置かれていなかったとはいえ、なにがしかの性的な被害は受けていると申してよろしいかもしれません。
そうであるなら、ララァとクスコ、二人のエルメスパイロットはその点でも共通点を有していることになります。

エルメスのパイロットには、深い悲劇の影がつきまとっています。




ゲームの中のエルメス……幻の4号機、幻のエルメスパイロット

エルメスは、アニメ作品、小説版のほかにもゲーム『SDガンダム GGENERATION』にも登場しています。
こちらではエルメスは4機。
1号機がララァ、2号機がクスコ・アル、3号機(白)がハマーン・カーン、4号機(赤)がセレイン・イクスペリ(ゲーム・オリジナルキャラクター)。
ただし、ゲーム作品ですので、公式の世界ではこの設定は「幻」ということになるでしょう。
「幻」の4号機。
「幻」のセレイン・イクスペリ。

ハマーンは、『ZZ』で第一次ネオ・ジオン抗争最終局面においてキュベレイを駆りジュドー・アーシタのZZガンダムと一騎打ち、その果てに戦死しました。
セレインは、ゲームの中で、グリプス戦役時、エゥーゴにMAテラ・スオーノを撃破されて戦死しています。
(ただし、セレインは選択によっては生還するシナリオの分岐あり)
やはり、エルメス搭乗経験者は、みな、最期は戦死する運命にあるのです。




エルメス

型式番号:MAN-08
タイプ :ニュータイプ専用試作型モビルアーマー
全長  :47.7m
全高  :85.4m
本体重量:163.7t
全備重量:291.8t
装甲材質:超硬スチール合金
開発基地:グラナダ
武装  :メガ粒子砲×2(防衛用)
     ビット×10(あるいは、×10前後、×12)(攻撃兵器)
異名  :ソロモンの亡霊
     チューリップ
     トンガリ帽子    



池田秀一は【シャア専用声優】ではなかった……『機動戦士ガンダム』(1979)における池田秀一キャラクター



池田秀一は、シャア・アズナブルのほかに7人の脇役に生命を吹き込んでいた

『機動戦士ガンダム』(1979-80)では、レギュラーキャラクターの担当声優はそれ以外の名有り・名無しの脇役の声を当てるのが普通でした。
主人公であるアムロ役の古谷徹(ふるや とおる)のみはアムロだけを演じていましたが、その他のレギュラー声優さん……井上瑶(セイラ、キッカ)、鵜飼るみ子(フラウ、レツ)、白石冬美(ミライ、カツ)、鈴置洋孝(ブライト)、飯塚昭三(リュウ)、古川登志夫(カイ)、鈴木清信(ハヤト)、玄田哲章(スレッガー)……は制作費を浮かすためでしょう、例外なく脇役の声も割り振られていました。
(昔のアニメでは、レギュラーキャラクターの声優さんが脇役の声を担当するのは普通のことでした)

それは、シャア役の池田秀一(いけだ しゅういち)も例外ではありません。
池田秀一=シャアという観念があまりにも強いため、一作目の『ガンダム』において、池田秀一はシャアにだけ生命を吹き込んでいたと思われがちです。
しかし、意外にもシャアのほかに7人の脇役の声をこなしています。

シャア・アズナブル(1~43)
オムル・ハング(12)
オスカ・ダブリン(12)
連邦整備兵(26)
連邦整備兵(27)
ホワイトベース兵士(27)
ワッケイン艦隊オペレーター(35)
ティアンムの参謀(35)

(声優さん情報は『ガンダム・エイジ』【洋泉社、1999年発行】所収の「史上最強 ガンダム声優紳士録」【筆者:サデスパー堀野】を全面的に参照しました。
サデスパー堀野さんによれば、耳だけを頼りに『ガンダム』(1979)のほぼ全キャラクターの声優さんを特定されたとのこと。
「もしかしたら間違っている可能性もなくはないが、信頼度は85~90%近いと思ってもらってかまわない」だそうです)




池田秀一=シャアは、ガンダム世界では不文律だった

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(2004-05)で、池田秀一はギルバート・デュランダルを演じました。
このとき、池田秀一がシャア以外の役をガンダム・シリーズでついにやるのかと思った人はけっこういたのではないでしょうか。
わたしも、そうでした。

池田秀一=シャアというのは、ガンダム世界では神格化されています。
声優・池田秀一の最大の当たり役はシャア・アズナブルです。
ガンダムにおいて池田秀一といえばシャアの声優さんです。
シャアとアムロは、長らく『ガンダム』を代表する二大キャラクターでした。
アムロの古谷徹とシャアの池田秀一は、ガンダム世界ではそれぞれがアムロとシャアだけしか演じてはいけないのだという、そのような不文律がファンのあいだにはありました。

しかし、『SEED DESTINY』の実質的な敵(キラやアスランたちから見て)の総大将であるデュランダル役にキャスティングされました。
ただし、『SEED』はコズミック・イラ(C.E.)を舞台にしています。
第一作目の『ガンダム』の宇宙世紀(U.C.)とは異なります。

宇宙世紀ではないのだから、池田秀一がシャア以外の役柄を演じても良いではないか、とわたしなどは自分を納得させました。
しかし、その宇宙世紀においても、池田秀一は『機動戦士ガンダムUC』(2010-14)のフル・フロンタルを担当します。
このフル・フロンタルはシャアに似せて造られた強化人間であるため「声も似せた」ということなのでしょうが、なにか釈然としないものを感じました。
『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のシャア=池田秀一が、遠く過去の濃い霧の向こうに去っていくような寂しさだったのかもしれません。




『機動戦士ガンダム』(1979)のシャアではない池田秀一キャラクター

しかし、池田秀一はガンダム世界においてフル・フロンタル、さらにはデュランダル以前にもシャア以外のキャラを演じていました。
それも、1979年という『ガンダム』誕生年にすでに。

たしかに、『ガンダム』における池田秀一キャラクターの最初はシャア・アズナブルです。
第1話(1979.4.7放送『ガンダム大地に立つ!!』)においてです。

しかし、およそ2ヵ月後の12話(1979.6.23放送『ジオンの脅威』)でホワイトベースのクルーであるオムル(メカニック)とオスカ(オペレーター)を担当しています。
シャアが「坊やだからさ……」の名セリフを酒場でつぶやいていたとき、同じ12話で『ガンダム』第2、第3の池田秀一キャラというべきオムルとオスカの口からも池田秀一の声が発せられていたのです。
すでに『ガンダム』開始の2か月ちょっとあとには、池田秀一は「シャア専用」の声優ではなくなっていたのです。

【オムルの「第6ブロックに被弾」が、シャア以外の池田秀一ガンダムキャラの第一声か?(真偽未確認)】

【ちなみに、オムルとオスカは池田秀一以外の声優さんも多数の方が担当なさっています。
オムルは、古川登志夫(7話、17、24)、塩沢兼人(21、26、28、32、38)、二又一成(25)、鈴木清信(31)の各氏。
オスカは、鈴木誠一(2話)、古川登志夫(3、6、7)、鈴木清信(5、6、7、11、16~)、声優ではない人の声(15)の各氏】

本放送当時、シャアはのちの時代のようには『ガンダム』の現場で重んじられていなかったのかもしれません。
のちに神格化されるシャアと同じくらいにもとから重んじられていたなら、他のキャラクターと声をだぶらせるということはなかったのではないでしょうか。
しかし、だぶりを経験しなくてすんだのは主人公のアムロだけでした。
劇場版がヒットしてから、シャアの神格化のあらわれの一つである「池田秀一は【シャア専用声優】」という特別視が生まれたのかもしれません。




『機動戦士ガンダム』(1979)池田秀一キャラクターリスト

シャア・アズナブル(1話『ガンダム大地に立つ!!』~43話『脱出』)
オムル・ハング(12話『ジオンの脅威』)
オスカ・ダブリン(12話『ジオンの脅威』)
連邦整備兵(26話『復活のシャア』)
連邦整備兵(27話『女スパイ潜入!』)
ホワイトベース兵士(27話『女スパイ潜入!』)
ワッケイン艦隊オペレーター(35話『ソロモン攻略戦』)
ティアンムの参謀(35話『ソロモン攻略戦』)