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シャア・アズナブル……言われているほど「赤」ではない「赤い彗星」(『機動戦士ガンダム』)



赤い彗星のMS……赤、赤、赤、青、赤、金、赤

シャア・アズナブルのMSが赤い色(あるいはピンク)に塗装されている理由に定説はありません。
さまざまな推測がなされています。

比較的優勢な説は、私見によれば二つ。
一つは、国威発揚のためにシャアのMSを(ザビ家の誰かが)目立つカラーである赤に塗装させたというものです。
ルウム戦役の英雄を士気高揚に利用しようという意図のもと、シャアのザクが赤く塗装されたというもの。
もう一つは、シャアのMSでの戦功、あるいは公国をしょってたつ将来性が高く評価されてパーソナルカラーを認められ、シャア個人の趣味として赤(とピンク)を選択したというものです。
派手なカラーリングは被発見率が高く、標的になりやすいという弱点があります。
ただ、敵味方に著名な凄腕のパイロットの機体であるなら、その派手さゆえに、敵に精神的なプレッシャーをあたえ、かたや味方を安心させ、その士気を鼓舞することができます。
そのような効果を狙って公国はパーソナルカラーの赤をシャアに認めたのではないかという説です。

なかには、異説(奇説?)もあります。
シミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』(1998年発売)では、あの赤は下地塗装のサビ止め塗料の赤だとの説が開陳されています。
士官学校を首席卒業したエリートのシャアに嫉妬した機材担当者が、サビ予防の下地塗装しか施していない機体を渡したというものです。

もしかしたら、これは、ゲームブック『最期の赤い彗星』(1986年発売)の影響かもしれません。
この作品は、ア・バオア・クー陥落直後、数人の部下たちとともにマ・クベの旗艦グワジン級宇宙戦艦「アサルム」を奪ってア・バオア・クーを脱出、シャアがアクシズへ向かう物語です。
この作品でシャアが搭乗するMSの一つが、MS-06R-2 高機動型ザクII(R-2型)の5号機(実際は、R-2型は4号機までしか存在しません)です。
この機体は赤色ですが、シャア専用のMSではありません。
サビ防止塗料を塗ったため赤色に見えるだけ。
シャアが脱出の途中発見して乗り込んだMSが、偶然赤だったという設定です。
それによって、シャアのMS=赤というお約束を守りつつ、「ジオン敗戦の混乱した脱出時になぜシャアが都合良く赤いMSに乗ることができたのか、それは単にサビ止めの下地塗装をしただけのMSだから赤かったのだ」と合理的に説明するための苦肉の設定だったのかもしれません。

どちらにしろ、ゲーム設定は公式ではないので、依然謎のままです。

シャアの愛機(一時的に搭乗したルッグンやガンダムMk-IIなどはのぞきます)のなかにも、赤く塗装されていないMSはあります。
ジオングと百式です。

ジオングは、ゲルググを中破させて戦闘不能になったため、急きょ乗り込むことになった機体であるためダークブルーとブルーの機体であることはやむをえないでしょう。
(左右の角と耳下?だけ、赤だったりしますが)

『Z』の百式は、塗り替える時間も機会あったはずですが最後まで金色で通しました。
シャアのMSなのに赤じゃない?と疑問に思った方も多いことでしょう。
これは、富野由悠季監督が「シャアの赤色というのはもう古いんじゃないか、黄金のシャアにしよう」(抜粋:「別冊アニメディア 機動戦士Zガンダム 完全収録版」学研、1986)ということから金色の塗装にされたとのこと。
あとから、百式の命名は設計者M・ナガノ博士が「百年後も通用する設計」と高言したことに由来し、そのため機体色も永遠を意味する金が採用されたという設定が生まれたようです(『THE OFFICIAL GUNDAM FACT FILE No.8』ディアゴスティーニ)。
もう一つ後付けで、金色塗装の合理的説明として優秀な耐ビームコーティングを施してあるからという設定もつくられました。

しかし、その「古い」はずの赤いシャア専用MSが『逆襲のシャア』では復活しました。
サザビーです。
富野由悠季監督の心境にいかなる変化が?
あるいは圧力?

ともあれ、シャアは百式の時点で、優秀な耐ビームコーティングのために愛機を赤色に塗装することを断念しました。
シャアの赤へのこだわりは、その程度だったのでしょうか?

しかし、シャアが赤に愛情を持っているのかどうか疑わしい事実は他にもありました。
私服です。
シャアの私服です。

シャアの私服は、ほぼレッド/ピンク関係とは無縁なのです。
わたしの調べた範囲のなかでは、レッド/ピンクは一例のみ。
赤いネクタイとピンクのシャツのあのときのみ……。

ではシャアの私服の色の組み合わせ一覧を……その前に、ほぼ赤系統で統一された軍服/ノーマルスーツから見てみましょう。




赤い彗星の軍服……赤、赤、赤/ノーマルスーツ……赤、赤、黄

シャアは、軍服に関しては一貫して赤を通しています。
『ガンダム』『Z』『逆襲のシャア』皆勤賞です。
100%。
ただし、『逆襲のシャア』では2種類の軍服があり、モノレール搭乗時に着用していたコート型の軍服ははっきりと赤なのですが、演説や外交交渉に臨むときのマント付きの軍服は赤茶色に見えなくもありません。
たぶん、濃い赤色ということなのでしょう。

ノーマルスーツも、『Z』までは赤系統のみでした。
『ガンダム』第2話でサイド7に潜入を果たすときにはじまり、ルナツー潜入、そして唯一、戦闘中にノーマルスーツを着用したア・バオア・クー。
『Z』では第1話のグリプス潜入から、最終回にいたるまで戦闘中は赤いノーマルスーツを着用しつづけました。
しかし、『逆襲のシャア』でついに赤いノーマルスーツの歴史は途絶します。
総帥用の特注のノーマルスーツを着用しますが、色は黄色です。
金髪に合わせでもしたのでしょうか?
それとも、30歳を超えたシャアは、さすがに派手な赤いノーマルスーツは気恥ずかしくなった?
(とはいえ、軍服は赤のままですが)

ちなみに、クェスはシャアとお揃いの小さいサイズの特注ノーマルスーツを着用していますが、そのカラーは赤でした。
モノレール搭乗時の軍服も、クェスはシャアとお揃いの軍服を着ていますが、こちらはシャアも赤、クェスも赤のほぼ完璧ペアルック。
『逆襲のシャア』では、プライベートで愛人のナナイとお揃い?のバスローブを身に着けていますが、バスローブの色はシャアが薄い青、ナナイが赤でした。
周囲の女性に赤い着衣をまとわせる趣味がシャアにはあった?




赤い彗星の私服……赤系統たった一例、青系統と黄系統多し

問題は、私服です。
私服のレッド/ピンク系統は、たった一度のみ。
ネクタイが赤、シャツがピンク。
酒場でギレンのガルマ追悼演説に耳を傾けていた(適当に聞いていただけのような気もしますが)ときの服装だけです。
(ただし、わたしの確認した範囲内ではであり、もしかしたら漏れがあるかもしれません)


『ガンダム』
キャスバル家出     :コート(ブラウン?)
酒場、ギレンの追悼演説 :ネクタイ(赤)、シャツ(ピンク)、スーツ(白)

『Z』
アクシズ、ハマーンと  :ネクタイ(淡い緑)、シャツ(白か淡い青?)、スーツ(青)
月のアンマン      :シャツ(白)、ベスト(淡い紫)、コート(紫)、ズボン(淡い紫)、ブーツ(黒?)
ダカール、ブレックス暗殺:マフラー(白か淡い青?)、コート(青か黒?)
ダカール演説      :ネクタイ(黄)、シャツ(淡い青)、スーツ(青)

『逆襲のシャア』
サイド1のロンデニオン :ネクタイ(ブラウン?)、シャツ(淡い黄)、スーツ(黄)、ズボン(黄)、靴(黒?)
スウィートウォーター   :インナー(淡い青)、バスローブ(淡い青)、スリッパ(淡い青?)


いかがでしょうか?
個人の趣味がもっとも反映されるものの一つであろう私服にレッド/ピンク系統のものがこれだけ少ないのは、わたしには意外でした。
軍服やノーマルスーツやMSとちがい、私服では青系統が優勢です。
シャアはもしかしたら「青い彗星」になりたかったのでは?
あるいは『逆襲のシャア』でノーマルスーツ、私服のスーツ、シャツ、ズボンともに黄色だった……それは自分の髪の毛である金髪を、引いては亡き母の金髪、その娘である妹セイラの金髪をほうふつとさせるやもしれぬ黄色を好んでいたのでしょうか?
マザコンであることが『逆襲のシャア』で確定したシャアなら、その可能性もまんざら否定できないのではないでしょうか?
それとも、赤はここぞというときのために温存しておくとっておきの大切な色だったのでしょうか?
シャアの意中の色はいずれにありや?



エルメス……悲劇が付きまとうMA【ララァ・スン、クスコ・アル】(『機動戦士ガンダム』)


エルメス……悲劇、悲劇、悲劇

MAN-08 エルメスは、3機が試作されました。
エルメスは、一年戦争時代(U.C.0079)のニュータイプ専用MAです。

『機動戦士ガンダム 公式百科事典』(講談社、2001)からエルメスの項を抜粋してみます。


「なお、MAN-08は試作機が3機製作され、ララァ・スン少尉が搭乗したものは2号機であるという。
1号機は、パイロットが機体の要求するニュータイプ能力を有していなかったため、暴走したビットの攻撃で自爆したとされる(テスト中にも多数のビットが制御を失い、行方不明となったという)。
また、3号機はクスコ・アル少尉によって操縦され、実戦に投入されたというが、これは信憑性に欠けるといわざるを得ない。
この説によればクスコ・アル少尉はシャア・アズナブル大佐の指揮したニュータイプ部隊の一員であったことになっているが、その存在は確認されておらず、ララァ・スン少尉出撃前後の状況から見ても、実在は甚だ疑わしい」


クスコ・アル少尉は、小説版『機動戦士ガンダム』(著・富野喜幸(現在の富野由悠季))に登場したエルメスのパイロットです。
小説版設定ですので、アニメ作品を基準にする『ガンダム』の公式設定からは「信憑性に欠ける」とコメントされているわけです。

なお、クスコ・アルの搭乗したエルメスは、小説版だと2号機、MSV設定では3号機でした。
ララァの乗るエルメスが2号機というのはMSV設定です。
MSVでは1号機/ビットの攻撃で戦死したパイロット(名前不詳)、2号機/ララァ・スン、3号機/クスコ・アルということになります。

この3人、皆が皆、不幸な運命をたどることになります。




エルメス1号機のパイロット……不足していたニュータイプ能力

1号機のパイロットは、実戦でなく実験中に戦死しました。
ニュータイプ能力者ではありましたが、エルメスを制御できるほどの能力には恵まれず、本来なら自分の強力な武器になるはずのビットの攻撃を受けて亡くなりました。

なまじ、ニュータイプ能力があったがための悲劇と言えましょう。




ララァ・スン、クスコ・アル……エルメスでの戦死、性的な被害

ララァとクスコ・アルは、それぞれ、アニメ版と小説版を出自とするキャラクターですが、特徴的な共通点が2人にはあります。

まず一つ目、二人ともエルメスに搭乗して戦死しています。
相手は二人ともアムロ・レイ。
それぞれ、アニメ版のアムロと小説版のアムロに撃破されています。

二つ目。
ララァもクスコ・アルも、性的な被害者でした。
クスコ・アルは、連邦の兵士に性的暴行を受けた過去があるようです。

ララァは、インド地区の売春宿で生きるために身をひさいでいたといいます。
むろん、ララァが望んでの売春ではないでしょう。
孤児である貧しい少女のララァは、身をひさいで生計をたてなければならなかったのです。
ただ、ララァは売春宿にはいたものの、客を取る前にシャアによって救い出されたという説もあります。
また、公式であることを謳っている(とはいえ、本当に公式なのかは不明ですが)『GUNDAM FACT FILE No.1』(デアゴスティーニ、2004)では、「むやみやたらに客を取らされるようなことはなく、相応に自尊心を持てるような環境だったようだ」とのことです。
この文言はあいまいです。
「むやみやたらに」ではないものの「客を取らされ」てはいたとも読めますが、いかがでしょうか?
それとも、「むやみやたらに」客の相手をさせるようなひどい待遇は受けず、まったく「客を取らされるようなことはな」かったということなのでしょうか?
「相応に自尊心を持てるような環境」の「相応」の「自尊心」というのも、「相応」の程度があいまいで、まったく「客をとらされ」なかったので「自尊心を持て」たのか、「客を取らされ」たものの人数や性交の態様においてひどい条件ではなかったので「相応に自尊心を持て」たのか、いまひとつ不明です。

もし、「客を取らされ」ていたのであれば、そうひどい環境に置かれていなかったとはいえ、なにがしかの性的な被害は受けていると申してよろしいかもしれません。
そうであるなら、ララァとクスコ、二人のエルメスパイロットはその点でも共通点を有していることになります。

エルメスのパイロットには、深い悲劇の影がつきまとっています。




ゲームの中のエルメス……幻の4号機、幻のエルメスパイロット

エルメスは、アニメ作品、小説版のほかにもゲーム『SDガンダム GGENERATION』にも登場しています。
こちらではエルメスは4機。
1号機がララァ、2号機がクスコ・アル、3号機(白)がハマーン・カーン、4号機(赤)がセレイン・イクスペリ(ゲーム・オリジナルキャラクター)。
ただし、ゲーム作品ですので、公式の世界ではこの設定は「幻」ということになるでしょう。
「幻」の4号機。
「幻」のセレイン・イクスペリ。

ハマーンは、『ZZ』で第一次ネオ・ジオン抗争最終局面においてキュベレイを駆りジュドー・アーシタのZZガンダムと一騎打ち、その果てに戦死しました。
セレインは、ゲームの中で、グリプス戦役時、エゥーゴにMAテラ・スオーノを撃破されて戦死しています。
(ただし、セレインは選択によっては生還するシナリオの分岐あり)
やはり、エルメス搭乗経験者は、みな、最期は戦死する運命にあるのです。




エルメス

型式番号:MAN-08
タイプ :ニュータイプ専用試作型モビルアーマー
全長  :47.7m
全高  :85.4m
本体重量:163.7t
全備重量:291.8t
装甲材質:超硬スチール合金
開発基地:グラナダ
武装  :メガ粒子砲×2(防衛用)
     ビット×10(あるいは、×10前後、×12)(攻撃兵器)
異名  :ソロモンの亡霊
     チューリップ
     トンガリ帽子    



池田秀一は【シャア専用声優】ではなかった……『機動戦士ガンダム』(1979)における池田秀一キャラクター



池田秀一は、シャア・アズナブルのほかに7人の脇役に生命を吹き込んでいた

『機動戦士ガンダム』(1979-80)では、レギュラーキャラクターの担当声優はそれ以外の名有り・名無しの脇役の声を当てるのが普通でした。
主人公であるアムロ役の古谷徹(ふるや とおる)のみはアムロだけを演じていましたが、その他のレギュラー声優さん……井上瑶(セイラ、キッカ)、鵜飼るみ子(フラウ、レツ)、白石冬美(ミライ、カツ)、鈴置洋孝(ブライト)、飯塚昭三(リュウ)、古川登志夫(カイ)、鈴木清信(ハヤト)、玄田哲章(スレッガー)……は制作費を浮かすためでしょう、例外なく脇役の声も割り振られていました。
(昔のアニメでは、レギュラーキャラクターの声優さんが脇役の声を担当するのは普通のことでした)

それは、シャア役の池田秀一(いけだ しゅういち)も例外ではありません。
池田秀一=シャアという観念があまりにも強いため、一作目の『ガンダム』において、池田秀一はシャアにだけ生命を吹き込んでいたと思われがちです。
しかし、意外にもシャアのほかに7人の脇役の声をこなしています。

シャア・アズナブル(1~43)
オムル・ハング(12)
オスカ・ダブリン(12)
連邦整備兵(26)
連邦整備兵(27)
ホワイトベース兵士(27)
ワッケイン艦隊オペレーター(35)
ティアンムの参謀(35)

(声優さん情報は『ガンダム・エイジ』【洋泉社、1999年発行】所収の「史上最強 ガンダム声優紳士録」【筆者:サデスパー堀野】を全面的に参照しました。
サデスパー堀野さんによれば、耳だけを頼りに『ガンダム』(1979)のほぼ全キャラクターの声優さんを特定されたとのこと。
「もしかしたら間違っている可能性もなくはないが、信頼度は85~90%近いと思ってもらってかまわない」だそうです)




池田秀一=シャアは、ガンダム世界では不文律だった

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(2004-05)で、池田秀一はギルバート・デュランダルを演じました。
このとき、池田秀一がシャア以外の役をガンダム・シリーズでついにやるのかと思った人はけっこういたのではないでしょうか。
わたしも、そうでした。

池田秀一=シャアというのは、ガンダム世界では神格化されています。
声優・池田秀一の最大の当たり役はシャア・アズナブルです。
ガンダムにおいて池田秀一といえばシャアの声優さんです。
シャアとアムロは、長らく『ガンダム』を代表する二大キャラクターでした。
アムロの古谷徹とシャアの池田秀一は、ガンダム世界ではそれぞれがアムロとシャアだけしか演じてはいけないのだという、そのような不文律がファンのあいだにはありました。

しかし、『SEED DESTINY』の実質的な敵(キラやアスランたちから見て)の総大将であるデュランダル役にキャスティングされました。
ただし、『SEED』はコズミック・イラ(C.E.)を舞台にしています。
第一作目の『ガンダム』の宇宙世紀(U.C.)とは異なります。

宇宙世紀ではないのだから、池田秀一がシャア以外の役柄を演じても良いではないか、とわたしなどは自分を納得させました。
しかし、その宇宙世紀においても、池田秀一は『機動戦士ガンダムUC』(2010-14)のフル・フロンタルを担当します。
このフル・フロンタルはシャアに似せて造られた強化人間であるため「声も似せた」ということなのでしょうが、なにか釈然としないものを感じました。
『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のシャア=池田秀一が、遠く過去の濃い霧の向こうに去っていくような寂しさだったのかもしれません。




『機動戦士ガンダム』(1979)のシャアではない池田秀一キャラクター

しかし、池田秀一はガンダム世界においてフル・フロンタル、さらにはデュランダル以前にもシャア以外のキャラを演じていました。
それも、1979年という『ガンダム』誕生年にすでに。

たしかに、『ガンダム』における池田秀一キャラクターの最初はシャア・アズナブルです。
第1話(1979.4.7放送『ガンダム大地に立つ!!』)においてです。

しかし、およそ2ヵ月後の12話(1979.6.23放送『ジオンの脅威』)でホワイトベースのクルーであるオムル(メカニック)とオスカ(オペレーター)を担当しています。
シャアが「坊やだからさ……」の名セリフを酒場でつぶやいていたとき、同じ12話で『ガンダム』第2、第3の池田秀一キャラというべきオムルとオスカの口からも池田秀一の声が発せられていたのです。
すでに『ガンダム』開始の2か月ちょっとあとには、池田秀一は「シャア専用」の声優ではなくなっていたのです。

【オムルの「第6ブロックに被弾」が、シャア以外の池田秀一ガンダムキャラの第一声か?(真偽未確認)】

【ちなみに、オムルとオスカは池田秀一以外の声優さんも多数の方が担当なさっています。
オムルは、古川登志夫(7話、17、24)、塩沢兼人(21、26、28、32、38)、二又一成(25)、鈴木清信(31)の各氏。
オスカは、鈴木誠一(2話)、古川登志夫(3、6、7)、鈴木清信(5、6、7、11、16~)、声優ではない人の声(15)の各氏】

本放送当時、シャアはのちの時代のようには『ガンダム』の現場で重んじられていなかったのかもしれません。
のちに神格化されるシャアと同じくらいにもとから重んじられていたなら、他のキャラクターと声をだぶらせるということはなかったのではないでしょうか。
しかし、だぶりを経験しなくてすんだのは主人公のアムロだけでした。
劇場版がヒットしてから、シャアの神格化のあらわれの一つである「池田秀一は【シャア専用声優】」という特別視が生まれたのかもしれません。




『機動戦士ガンダム』(1979)池田秀一キャラクターリスト

シャア・アズナブル(1話『ガンダム大地に立つ!!』~43話『脱出』)
オムル・ハング(12話『ジオンの脅威』)
オスカ・ダブリン(12話『ジオンの脅威』)
連邦整備兵(26話『復活のシャア』)
連邦整備兵(27話『女スパイ潜入!』)
ホワイトベース兵士(27話『女スパイ潜入!』)
ワッケイン艦隊オペレーター(35話『ソロモン攻略戦』)
ティアンムの参謀(35話『ソロモン攻略戦』)



井上瑶【セイラ、キッカ、ハロ】だけではない……『機動戦士ガンダム』(1979)における井上瑶キャラクター




井上瑶 ……セイラ、キッカ、ハロ

井上瑶(いのうえ よう)【1946.12.4~2003.2.28、享年56】といえば『機動戦士ガンダム』でセイラ・マス(17歳)を演じたことで有名です。
同時に、ハロとならぶホワイトベースのマスコット的存在であるキッカ・キタモト(4歳)をも好演しました。
そのハロも、TVシリーズで声を担当したのは井上瑶でした。
(劇場版Iでは高木早苗(たかぎ さなえ)さん、劇場版II、IIIは不明)

セイラ
キッカ
ハロ
錚々たる顔ぶれです。
『機動戦士ガンダム』の人気者ぞろいです。

しかし、このレギュラー3人以外にも、井上瑶は『機動戦士ガンダム』(1979)において数多くのキャラクターを演じています。




声優がだぶるのは、昔のTVアニメでは当たり前

初代の『機動戦士ガンダム』TV版において、レギュラー陣のなかで一人のキャラクターしか担当していない声優さんは、主役のアムロ・レイを演じた古谷徹だけかもしれません。
シャア(池田秀一)もブライト(鈴置洋孝)、ミライ(白石冬美)、リュウ(飯塚昭三)、カイ(古川登志夫)、フラウ(鵜飼るみ子)、ハヤト(鈴木清信)、スレッガー(玄田哲章)も、名前のあるなしにかかわらず脇役・チョイ役キャラクターを担当しています。

これは、おそらく声優さんのギャラを低くおさえようとしているのでしょうが、昔のTVアニメではそう珍しいことではありません。
『機動戦士ガンダム』も本放送のときは、アニメマニアにはそのリアルな人間ドラマなどが注目されていましたが、一般への知名度はほぼ皆無という海のものとも山のものともつかぬ作品だったため、制作費を切り詰めなければなりませんでした。

そのため、主役ではないセイラ役の井上瑶も複数のキャラクターを演じていました。




『ガンダム・エイジ』の「史上最強 機動戦士ガンダム声優紳士録」(サデスパー堀野)

そこで、井上瑶が演じたキャラクターをご紹介いたします。

参考にするのは書籍『ガンダム・エイジ』(洋泉社 1999)の「史上最強 ガンダム声優紳士録」という記事。
筆者は、サデスパー堀野さん。
声優チェッカー歴10数年(1999年時点)だそうです。
(声優チェッカーってなに?)
その堀野さんが、みずからの耳だけを頼りに『機動戦士ガンダム』TV版のほぼすべてのキャラクターの声優さんを特定しています。
耳を頼りにしているため「もしかしたら間違っている可能性もなくはないが、信頼度は85~90%近いと思ってもらってかまわない」とのこと。




井上瑶キャラクター【『機動戦士ガンダム』TV版】

セイラ・マス(2話~)
キッカ・キタモト(1話~)
ハロ(1話~)
フラウの母(2話『ガンダム破壊命令』)
母親(3話『敵の補給艦を叩け!』)
ペロ(5話『大気圏突入』)
老女(7話『コアファイター脱出せよ』)
母親(7話『     〃     』)
コーリー(8話『戦場は荒野』)
淑女(10話『ガルマ 散る』)
赤ちゃん(10話『  〃 』)
男の子(13話『再会、母よ……』)
ミリー・ラトキエ(27話『女スパイ潜入!』)


フラウの母(ファム・ボウ)は第1話では鈴木れい子さんが演じています。
フラウの母は、第1話で流れ弾の爆発に巻き込まれて亡くなりました。
井上瑶は、第2話でフラウが母の生前の姿を回想しているシーンで声を当てています。
フラウがアムロの家に行くとき、「夕食には帰るのよ!」と声をかけていました。

ペロは、サイド7の避難民の少年。
スミス老人の孫。
アムロに故障した自動車のラジコンを修理してもらいました。
ホワイトベースは大気圏突入に成功、そのとき初めて地球の陸と海を目にしたペロ少年は祖父のスミスに、「へえ、あれみんな陸地なんだね。こっちが海?海っていうんだろ?」と驚異の声を挙げていました。
ちなみに、劇場版では門谷美沙(かどや みさ)さんが演じています。

コーリーは、サイド7の避難民の少年。
ペルシアの息子。
ペルシアとコーリー母子は、ホワイトベースを降りてペルシアの亡き夫(コーリーの亡き父)の故郷セント・アンジェを目指します。
その際に、ジオン軍の偵察機ルッグンのパイロットであるバムロとコムと敵味方を越えて助けあいました。
別れ際にバムロから、いまいる無人の荒野が一年前までセント・アンジュであったことを告げられます。
亡き夫の故郷がもうこの世には存在しないことを知ったペルシアは涙しながらコーリーを抱きしめ、コーリーは「ママ……」と立ちすくんでいました。

淑女はガルマに憧れる女性たち3人のこと。
ニューヤークのパーティーで、前を横切るガルマの横顔を目にして「まぁ、ガルマ様、いつも凛々しいお姿」「まあステキ」「しびれちゃう」などと言いつつメロメロになっています。
このコミカルに描かれる3人の女性を演じたのは、セイラ、フラウ、ミライの井上瑶、鵜飼るみ子、白石冬美でした。
史上もっともゼイタクな3人のチョイ役女性たちだったかもしれません。

ミリー・ラトキエは姉ミハルと兄ジルの妹。
三人の姉弟は戦争孤児。
ミハルを母親代わりに、三人で生活しています。
ジルとミリーともに松岡洋子(まつおか ようこ)さんがクレジットされているようなのですが、サデスパー堀野さんはクレジットの間違いを指摘しています。
ジルは松岡洋子さん、ミリーは井上瑶とのこと。
ミハルがホワイトベースに潜入する直前、ミハルはしばしの別れ(それは永遠の別れになってしまいますが)にジルとミリーに頬を寄せて抱きしめます。
そのとき、「姉ちゃん……姉ちゃん、母ちゃんのにおいがするんだね」とミリーは目をつぶって幸せそうにミハルにささやきました。
ミハルは、「思い出させちゃったかね……」と二人を強く抱きしめ、目から涙を流しました。



ララァ・スン 富野由悠季初期設定では【白人&金髪】だった『機動戦士ガンダム』



ララァ・スンは白人&金髪になるはずだった


ララァ・スンは、富野監督の初期構想のなかでは「白人&金髪」だったといいます。
しかし、脚本家の「ニュータイプが出てくるならばこういう人たちから」という意見により、インド系の少女として再構想されたのだそうです。
(なぜ、ニュータイプがインド系なのかはわたしにはわかりません。ヨガや瞑想などの影響でしょうかね? それとも仏教発祥の地だから?)

2000年代、ムックか雑誌で「ララァは富野監督の当初の案では金髪の白人だった」という記事を読みました。
誌名は忘れました。
ネットで調べてみると、脚本家(わたしの記憶では安彦良和だったのですが)の意見により、金髪の白人からインド系に変更されたのは間違いなさそうです。

富野監督の頭のなかでは、初め、ララァは金髪の白人だったのです。
セイラのような?
そして、おそらくは、シャアとセイラの母親のような?




マザコンのシャア……「ララァ・スンは、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!」


シャアは、『逆襲のシャア』(1987) でマザーコンプレックスであることが周知のものになりました。

アクシズの地球への落下により、シャアとアムロの生命が尽きようとしていたときのことです。
シャアはアムロに、

ララァ・スンは、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!

と絶叫するのです。
まるで、それが遺言であるかのように。
このセリフは、生前、最後のシャアの言葉です。
このあと、そのまま続けて「そのララァを殺したお前にいえたことか!」とアムロに言い放ち、シャアの姿は画面から永遠に消えてゆきます。

そのアムロが、

「お母さん? ララァが?」

と戸惑っていたのが印象的でした。
その戸惑いは、我々、視聴者のものでもあったでしょう。
(ちなみに、この言葉も生前のアムロ最後の言葉です。
このあとすぐ「うわ!」という絶叫とともに、アムロの姿も画面から永久に消えてゆきました)

いまでこそ、ファンのあいだでシャアがマザコンであることは知れ渡っており、それがシャアをからかう一つの定番にもなっていますが、公開時、これはけっこう衝撃的でした。
シャアの女性に対する姿勢は、成熟した大人の男のそれと思っていたところ、女性に(ララァに。もしかしたら、ナナイ・ミゲルにも)母親を求めていたのですから。

当時のアニメ雑誌『OUT』には、比較的長文の批評を掲載する読者投稿のコーナーがありました。 
そこに、シャアがマザーコンプレックスであったことへの非難といいましょうか、怒りといいましょうか(あるいは失望か)、読者からの詰問するような強い批判が寄せられていました。
それに賛同する人は、けっして少なくはなかったでしょう。

この『逆襲のシャア』から、シャアにはマザコン属性が抜きがたくついてまわるようになりました。




褐色の肌のララァ、白い肌のシャア


ただ、違和感はありました。
白い肌のシャアが、褐色の肌のララァに母親を求めていたことに。

そのころ、高校一年生であったわたしは、親子関係というものを血と遺伝で考えるようなところがありました。
単純に、肉体的な継承性を親子の基準にするような。
(いまでは、血のつながりや容姿などではなく、精神的なつながりが家族にとってはもっとも大事なものだとおもっていますが)
その基準からすると、白人の女性に母性を求めるのが自然の流れのように思えたのです。




ララァは、白人金髪のセイラ似の女性になるはずだった?


しかし、ララァが金髪の白人女性であったと想定するなら、違和感はすっきりします。
ララァの肌の色を褐色から白へ、髪の色を金へと置き換えてみてください。
なにやら、セイラに似た女性にならないでしょうか?
(なんとなくでも)
(ちょっと無理なこじつけでしょうかね?)

富野監督は、最初の『ガンダム』の時点で、シャアとララァとの関係はマザーコンプレックスを軸に考えていたのかもしれません。
富野監督の頭のなかでララァが金髪の白人だったのは、セイラを意識していたのかもしれません。
より正確にいえば、セイラが面影を受け継いでいる(かもしれない)母親を。
なにも、『逆襲のシャア』にいたってシャアがララァに母性を求めていたというような唐突なものではなかったのかもしれません。
富野由悠季の心のうちでは。

そんなふうにも思えるのです。
なんとなく。
ただ、なんとなく。
……やっぱり、違うか?