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クロノクル・アシャーはマザコン? 母親代わりの「アマルテア」(&「アドラステア」)『機動戦士Vガンダム』



ザンスカール帝国の艦艇は、木星の衛星の名をもつものが多い。

カリスト 木星の第4衛星
アマルテア 木星の第5衛星
シノーペ 木星の第9衛星
リシテア 木星の第10衛星
アドラステア 木星内部衛星群の衛星のなかで内側から2番目の軌道にある衛星



名前はギリシア神話由来です。
木星は、ローマの主神ユーピテル(英語名:ジュピター)をもとに命名されました。
ユーピテルはギリシア神話の主神ゼウスと同一視されていますので、木星の衛星はゼウスにちなんで名前がつけられています。

カリストー……ニンフ、ゼウスの愛人、ゼウスとのあいだにアルカスを産む
アマルテイア……幼子だったゼウスに乳をあたえて育てた山羊、あるいはニンフ
シノーペー……ゼウスに愛されたが、ゼウスに約束させて処女を守った
リシテア……ニンフ、ゼウスの愛人
アドラステイアー……ギリシア神話の女神、ゼウスとアナンケーの娘

ニンフとは、ギリシア神話の女神(精霊)のことです。



ザンスカール帝国の建国者であるフォンセ・カガチが「木星帰り」(木星船団公社に所属していた)であるため、木星の衛星から艦艇のネーミングを拝借したのかもしれません。



しかし、わたしは別の見方をしています。
クロノクルと姉マリアにちなんだものではないかと。

ゼウスの幼児のときの逸話があります。
全宇宙を統べる神々の初代の王は天空神ウラノス。
2代目の王は、ウラノスの末子クロノス。
3代目の王は、クロノスの末子ゼウス。

この後継はすんなりいったわけではありません。
むしろ、修羅の道でした。
ウラノスには醜さを嫌って自分の子供たち(クロノスの兄たち)を奈落の底に幽閉するなど横暴な振る舞いがあり、子供を幽閉されたウラノスの妻ガイア(クロノスや醜いため幽閉されたクロノスの兄たちの母)はウラノスを恨み、クロノスをけしかけました。
それに応じ、クロノスは父ウラノスの陽物を去勢し、王位を奪う。
王となったクロノスは、今度は自分が子供たちに王位を奪われるのではないかと疑心暗鬼になり、妻レアとのあいだに産まれる子供たち(ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン)をつぎつぎと丸呑みしていきました。
(のち、成人したゼウスによってゼウスの姉弟はクロノスから解放、クロノスは奈落の底に幽閉)
そこでレアは、ゼウスが産まれたとき策を講じ、赤子といつわって石を呑み込ませました。
そして、ひそかにクレタ島にゼウスを逃します。
このとき、母親の代わりになって自らの乳をあたえゼウスを養育したのが山羊(あるいは、ニンフ)のアマルテイアだったのです。



一方、マリアとクロノクルの姉弟。
マリアはザンスカール帝国の(名目的な)女王。
クロノクルは、女王の弟にして、ザンスカール帝国の艦隊司令の一人。

マリアとクロノクルの両親は離婚し、二人を引き取った親は育児放棄。
マリアは9歳年下のクロノクルを養育するため、15歳を過ぎたころにはみずからの身をひさぐようになりました。

クロノクルの糧は、マリアの肉体によってあがなわれていたのです。
下品な言い方をすれば、マリアの乳が男たちに吸われることにより、クロノクルは日々ミルクとパンを口にすることができたわけです。

自分の乳をあたえゼウスを養った山羊・精霊のアマルテイアに似てはいないでしょうか。

そのクロノクルが艦長となって乗艦していたのが、アマルテア級1番艦の「アマルテア」。
これは偶然?



自分を育ててくれた母親代わりの姉マリア。
クロノクルが亡くなる直前に心のうちで叫んだのは、恋人のカテジナの名でなく「マリア姉さん」でした。

姉さん、マリア姉さん、助けてよ、マリア姉さん……

わたしには、なにやら、マザコンめいたものをクロノクルの最期からは感じるのですが……。



ちなみに、女性から忌み嫌われるマザコンですが、最近では、マザコンを肯定する女性もちょっとずつ増えはじめているとか(本当かね?)。
過剰なものはともかく、軽度のマザコンならOKなんじゃないかと。
母親を大事にできない男が妻や恋人を大事にできるわけがない、と。
また、高齢化時代、母親を粗末にするのはなにかとよろしくない、と。



また、アドラステイアーもいわくつきなのです。
アドラステイアーは、上記のアナンケーとのあいだのゼウスの娘のほかにもう一人、ギリシア神話に登場します。
アマルテイアがゼウスに乳をあたえたのとは違うゼウス幼児期神話に出てきます。
その異伝では、クレタ島で赤子のゼウスを母親代わりとなって育てるのが、イーデーとアドラステイアーのニンフの姉妹なのです。



そして、クロノクルが艦隊司令として座乗した艦艇の名は二つ。
「アドラステア」と「アマルテア」。
そのもとになっているアドラステイアーとアマルテイアーは、二人ともゼウスの母親代わりの役割を担っているのです。

これは偶然なのでしょうか?
(こういうときって、往々にしてただの偶然ということがあるんだよなあ)



アドラステイアーとアマルテイアーを母親代わりという共通性からマリアに結び付け、それらにちなんだ艦艇にクロノクルを乗艦させたかった。
そこで、まずクロノクルが艦長として乗艦する艦艇を「アドラステア」と「アマルテア」と命名。
そして、それらと整合性をたもつためにザンスカール帝国のほかのいくつかの艦艇に同じ木星の衛星にちなんだ名前をつけたのではないか、などとわたしは愚考しています。

下衆の勘繰りかもしれませんが、アマルテア=マリア(アドラステア=マリア)のメタファー(隠喩)が隠れているような気がしないでもなく……。

もしかしたらクロノクルは、アマルテア(およびアドラステア)に寓意されるマリアの胎内で、戦争のあいまにひと時の安らぎを得ていたのかもしれません。