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『機動戦士Zガンダム』カミーユ、ジェリドを殴る 小説版ではジェリドはけっこうマイルド


『機動戦士Zガンダム』(1985.3.2~86.2.22)


第一話で、カミーユがジェリドに殴りかかったシーン。
そのさいのジェリドは、かなり尖っている印象がある。


「なんだ男か」のときも薄ら笑いを浮かべて小馬鹿にしているよう。
(エリートであること、おのれの才能や魅力といったものに自信があり、ふだんから余裕の笑みを浮かべているだけかもしれないが)
ジェリドを殴ったカミーユを憲兵が地べたにおさえているときも、容赦なくカミーユの額に蹴りをいれているような感じがする。
ジェリド、イヤなやつという印象をどうしてももってしまう。
(カミーユのほうがこええよという意見もむろんあるだろうが)


しかし、監督の富野由悠季みずからが書いた小説版の『Zガンダム』ではだいぶ印象がちがう


以下、小説版を参照・抜粋してみよう。


カミーユは、元ホワイトベース艦長のブライトのファンで、現在、ブライトがキャプテンをつとめるテンプテーションがグリーンノアの宇宙港に入港することを知って、会いにゆく。
ファもついてゆくが、カミーユはファなどおかまいなしに、どんどん先に進んでしまう。
ファは、カミーユを呼び止める。


(以下、『機動戦士Zガンダム 第一部 カミーユ・ビダン』富野由悠季 角川文庫 P57~60抜粋)


「カミーユっ!」
「うるさいな!」
その声に、ティターンズの男が言った。
「男か……」
それは、決して大きな声ではなかった。
しかし、カミーユに確実に聞こえた。
その意味するところもわかってしまった。
「……!」
カミーユは、自分がなにをしようとしているのかわからなかった。
しかし、カミーユの脚は、確実にそのティターンズの男に向かって歩いていた。
「……?」
その男は、まっすぐに自分に向かって歩みよる少年が、ひょっとすると知っている少年かと思ったのだろう。
体をカミーユに向けた。
「……?」
カミーユは、男の前で立ち止まった。
その男の後ろからは、何人かのティターンズのクルーが近づいていた。その中には、エマ・シーンもいた。
「ジェリド中尉、荷物はどこのハッチから出るのでしょう?」
カミーユの前の中尉が、その声の方に振り向こうとした。
「いけませんか!? 男では……」
カミーユの噛みつくような言葉に、その中尉は、カミーユを見下ろした。
「君は……?」
その男、ティターンズの選ばれた男、ジェリド・メサは、その長く濃い眉をしかめてから、かすかに左右の仲間を振り返って、苦笑いをみせた。
「いけませんかっ!」
「いや、美しい少年だから……」
「なめるなっ!」
その言葉が終わらないうちにカミーユの体がジェリド・メサにぶつかっていた。続いてカミーユの右の手がジェリド中尉の顎を砕いていた。
なまじのカラテは、手加減を知らなかった。
「アアッ!」
ファの絶叫に、ティターンズのクルーがザワッと動き、つぎには、数人のティターンズのクルーがカミーユに飛びかかっていた。
殴られて空に流れてゆくジェリドの背後にいた男女も、選ばれたティターンズのパイロットである。
格闘技も習得していた。なによりも、カミーユにとっては、多勢に無勢である。
あっという間にカミーユは、床に押しつけられた。
「やめろっ!」
「暴漢だっ! 俺たちをティターンズと知りながら暴行を加えてきた!」
空港の職員、警備のMPたちがふっとんできた。
顎を砕かれたジェリド・メサが、うめきながらも姿勢を正して、カミーユの視界の中にその靴を着床させた。
そして、カミーユを見下ろした。
「仲間を出迎えに出ている時にこれでは……あやまってもらいたいな……」
ジェリド中尉は、顎をなでながらも、その瞳に残忍な色をうかべた。
カミーユは、数人の手で顔を床に押しつけられながらも、そのジェリドの眼の色を見上げていた。
「なにっ……っ!」
カミーユが、反抗的な言葉を発したのもジェリドの眼の色のせいだ。
「ガキがっ! 名前がなんだって言うんだよっ!」
ジェリド・メサは、さすがに大人だった。
力のいれようを加減しながらも、カミーユの鼻柱に靴さきで蹴りを入れた。
その瞬間に、カミーユは、世界中がぐしゃっとつぶれたような音響を聞いた。
ジェリドの靴の先がカミーユの鼻柱に食いこみ、カミーユは、ドッと涙をあふれさせながら気絶していった。




感想
どうだろう?


「男か……」とのみ言っている。
「なんだ」という、受けとりようによっては侮蔑語にもなりかねない言葉は発していない。
しかも、小声。
ぽつり、つい洩らしたような口調である。
聞かせるために言ったのではない。
ひとりごとをカミーユに聞かれてしまったのである。


また、カミーユのことを「君」と呼んでいる。
ジェリドは、出自も良く、一貫してエリート街道をあゆんでいるようである、その毛並みの良さがうかがえる。
もし、カミーユのことで苦汁をなめなければ、アニメのほうでもジェリドはけっこう品の良さを各処でのぞかせていたかもしれない。


蹴りはしっかりいれているが、それも加減している。
それでも、カミーユは気をうしなってしまうわけだが、アニメではジェリドが全力で蹴っているように見えなくもないので、ここでもジェリドの印象はアニメより良い。


そして、「いや、美しい少年だから……」。
なにやら、女性たちの喜びそうなセリフである。
ここでもジェリドの言葉遣いには品がある。
ジェリドはカミーユのことを少女だとおもっていた→カミーユの声を耳にして少年だと知る→「男か……」、ということだろうか?
だとすると、ジェリドの「男か……」という言葉に侮蔑の意味はない。
少女だとおもったら少年だったのか、というたんなる感想である。
それどころか、ある種、カミーユの(美しい)外見にたいする称賛ととれなくもない。


小説版のジェリドは、アニメよりもマイルドである。
小説の作者が監督の富野由悠季であるだけに、もしかしたら、アニメのほうでもジェリドはけっこう毛並みのいい青年軍人を想定していたのかもしれない。


また、小説版のジェリドはアニメ以上に被害者的な立場が強調されている。
そのつもりもないのに侮辱されたと勘違いしたカミーユに、いきなり殴られるという。
カミーユとかかわらなければ順風満帆な人生をおくれたのではないか、という感慨をより深くするのはわたしだけだろうか?
それとも、やはり、ジェリドが屈辱にまみれるのは定められた運命だったのだろうか