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『機動戦士ガンダム 灼熱の追撃』(1986)……少年は砂漠の戦いで成長し、なにものでもない存在からエースになった


ゲームブック『機動戦士ガンダム 灼熱の追撃』(86年/89年に改訂版発売)のダイジェストをお届けいたします。
(※ネタバレあり)


ジョン・クエスト、16歳

主人公は、ジョン・クエスト。
16歳。
ジオン公国軍の二等整備兵(上等兵に相当)。
学徒動員令によって召集された新兵です。
いまだMSの実戦経験はありません。




そのころ、宇宙ではバーニィの「ポケットの中の戦争」が始まろうとしていた……

『灼熱の追撃』は、0079年12月12日~12月15日にかけての物語。

『ポケットの中の戦争』では、12月12日にRX-78NT1アレックスがサイド6のリボー・コロニーに搬入、13日にはリボーにおいてバーニィとアルが出会い、14日には月の裏側の月面都市グラナダでバーニィがサイクロプス隊に合流、15日には偽装貨物船アグワベルデに搭乗したバーニィがリボー近傍宙域での陽動作戦にまぎれてリボーに入港しています。

大局的には、14日に連邦軍が星一号作戦を発動。

ちなみに、12月の24日にソロモンの戦い、25日にクリスマス作戦、31日にア・バオア・クーの戦いが宇宙ではおこなわれています。




「灼熱の追撃」プロローグ

宇宙世紀0079年12月12日。
ジョン・クエストは、学徒動員でアフリカの第18補給基地(タンザニア地区/キリマンジャロ近傍)に赴任していました。
基地は、アフリカを放棄して宇宙へ上がる準備に忙殺されていました。
スパイからの報告によれば、あと2、3日のうちに、連邦軍が大々的な「ジオン軍掃討作戦」をアフリカで展開しようとしているというのです。
かつ、本格的な攻勢の前であるとはいえ、軽視するわけにはいかない物量の連邦軍先遣隊がアフリカですでに作戦を展開中であり、その先遣隊との戦いも覚悟しながら宇宙港のあるアデン基地(イエメン/アラビア半島南端)へと辿りつかなければなりませんでした。

出発は明朝。
第18補給基地所属のおよそ30名の兵士たちに、タンザニア地区からイエメンのアデン基地までアフリカの砂漠地帯を北上する決死の任務が待ちかまえていました。




第18補給基地、壊滅

第18補給基地最後の夜。
ジョン(16歳)は、通信要員として深夜勤務に就いていました。
そこに、従軍看護婦のルリア(18歳)がコーヒーの差し入れにやってきました。
居眠りしかけていたジョンを注意するルリア。
2つ年下のジョンに、ルリアはなにかとお姉さんぶるところがありました。
ルリアにとってジョンは、かわいい弟のような存在?
それとも、気になる年下の男の子?
それは、戦場とはいえ若者たちにつきものの淡い思い出の一つになるはずのものでした。

しかし、それを許さなかったのは不意に訪れた戦争の影。
すさまじい衝撃と轟音。
突然のミサイル攻撃により基地は爆破され、壊滅してしまいます。
ジョンとルリアのいた通信施設は、基地の外れに位置していたため直接攻撃にさらされずにすみました。

爆風で割れたガラス窓から、炎上するギャロップの炎に照らされ、ジョンは襲撃者を確認することができました。
5機のMSです。
それもジオンのMSでした。
味方です……。
デザートザク、グフ、ドム……。
なかには、新鋭機のゲルググキャノンの姿も。
隊長機らしいゲルググキャノンは1m四方のコンテナを持ち出すと、長居は無用とばかりに迅速に基地から撤収。
混乱のなかジョンとルリアは生存者を捜索すると、瀕死の重傷を負った基地司令官をのぞいて第18補給基地の仲間は全滅していました。




ジョン・クエスト、裏切者を求めて砂漠の追跡の旅へ

基地司令官によると、襲撃したのは凄腕のエースパイロットであるクランベリー大佐率いるエース部隊「鉄のサソリ」だとのこと。
ゲルググキャノンが持ち出していったコンテナには、ジオン本国に届けなければならない、おそらくは新兵器に関するものであろう最重要機密データがおさめられているといいます。
「鉄のサソリ」はそれを連邦に売り渡そうとしているのだろう、というのが基地司令官の推測でした。

基地司令官はジョンに命令します。
基地に残っているMSで「鉄のサソリ」を追撃しろ、そしてクランベリーたちを討ち取り、最重要機密データを奪還するのだと。
それは、従軍看護婦のルリアと瀕死の重傷を負った基地司令官にはとうてい不可能な任務でした。

こうして、16歳、学徒動員、整備兵である実戦経験なしのジョン・クエストは、精鋭部隊「鉄のサソリ」を一人で追撃するという絶望的な戦いに身を投じることになりました。




ジョン・クエスト、戦いの軌跡

ジョン・クエストの「追撃」は、キリマンジャロ近傍タンザニア地区の第18補給基地からアフリカの砂漠地帯を北上して縦断、ゲド要塞(エチオピア高原)で幕をおろします。
戦い終えたあと、最終的にはアラビア半島の南端にある宇宙港アデン基地(イエメン)まで赴き、そこが旅の最終地点となりました。

第18補給基地からゲド要塞までのあいだ、派遣された「ジオン軍掃討作戦」の連邦軍先遣部隊と各地で戦火を交えます。
そして、北へ向かったとの情報をもとに追撃したクランベリー率いる「鉄のサソリ」と、エチオピア高原のゲド要塞でジョンは決着をつけることになります。




ジョン・クエストの愛機たち

ジョンの搭乗するMSは、当初は第18補給基地の格納庫に残されていた
☆デザートザク(MS-06D)
☆ドム(MS-09)
☆ズゴック(MSM-07)
のうち、いずれか1機。

後半は、連邦のウェレル山基地で強奪した
☆ガンキャノンII(RX-77-4/本作ではRX-77-3)
☆ジムスナイパーカスタム(RGM-79SC/本作ではRGM-79C)
のうちのいずれか1機を愛機にすることになります。




ジョン・クエストが戦ったMSたち

☆地球連邦のMS、兵器

ジム(RGM-79)
ジムキャノン(RGC-80)
ジムスナイパーカスタム(RGM-79SC/本作ではRGM-79C)【「レッドスター」インメルマンの愛機】
ジムライトアーマー(RGM-79L/本作ではRGM-79A)【「銀狐」ハルトマンの愛機】
ジム高機動バックパック装備(RGM-79)
ガンタンクII(RMV-1)【左腕が4連装ポップ・ミサイル・ランチャー。右腕が3連装ミサイル・ランチャー】
ガンタンクIII(RMV-3)【ガンタンクIIを改良・強化。右腕はビームライフル並、あるいはそれ以上の威力をもつ2連装ビーム砲(重装ビームキャノン)になっている】
74式巡航戦車(M74-A4)【長距離偵察やパトロールに使用される連邦軍の大型戦車。大きいだけで機動性が低く、火器も低出力ビーム砲と戦力不足はいなめない】
78式浮行戦車(M78-A)【連邦軍のホバー推進戦車。ビームライフル並の威力をもつビーム戦車砲を搭載。「MSキラー」の異名をもつ】
ガンナー・ビークル(MR75)【連邦軍の小型浮行戦車】
コアブースター(FF-X7-Bst/本作ではF-79)【連邦軍の新鋭攻撃機】
マングース(AF-01/本作ではBd-AF-01)【地球連邦空軍の対地攻撃機。ミノフスキー粒子散布下でも、レーダー兵器を用いず低空で地上に接近、直接敵を撃破する戦術で大きな戦果を挙げたという】
ミディア【連邦軍の輸送機】
ビッグトレー【連邦軍の巨大陸戦艇】




ジョン・クエストが追撃した「鉄のサソリ」のMSたち

☆ジオン公国「鉄のサソリ」所属MS

デザートザク(MS-06D)
グフ(MS-07B)
ドム(MS-09)
ゲルググキャノン(MS-14C)【クランベリー搭乗。ダークカラー迷彩。右肩に血のような赤でサソリのマーク。ビームナギナタ。ビームキャノン砲】




ジョン・クエストの友軍たち

☆ジオン公国軍のMS、兵器

ドム(MS-09)【ロベルト搭乗】
トロピカル・ドム(YMS-09D)【工場地帯に乗り捨てられていた】
コミュ【ジオン公国軍の連絡機。ククスの街の方角を教えてくれる】
サムソン【ジオン公国軍のMS専用輸送トレーラー】
ビグダブデ【ジオン公国軍の巨大陸上戦艦】




『灼熱の追撃』キャラクター

☆ジオン公国
ルリア【18歳。エミリアの姉。ジオン軍の従軍看護婦。16歳のジョンにお姉さんぶっている】
エリミア(エミリア)【女性。ルリアの妹。ジオン軍の偽装連絡員。ククスの街に潜伏中。最初、ジョンに少年と間違われる。ジョンに、「鉄のサソリ」の居場所やゲド要塞内部の地図などの情報を提供】
司令官【ジオン公国軍第18補給基地の司令官。「鉄のサソリ」の襲撃で瀕死の重傷を負う。ジョン・クエストに「鉄のサソリ」の追撃と最重要機密データの奪還を命令。宇宙への脱出時、重力圏離脱の衝撃に耐えられず亡くなる】
フレデリック・クランベリー【大佐。鉄のサソリの指揮官。ジオン屈指の名将。ロンメル部隊と砂漠の覇を競いあった。必要以上の殺戮は犯さない。ソーラ・レイ作戦の陽動作戦に従事。愛機は、ゲルググキャノン】
ロベルト【ジオン軍エースパイロット。『Zガンダム』のロベルトと同一人物。途中、ジョンとともに連邦のMSと戦う。実戦でジョンに射撃戦と白兵戦のやり方をレクチャー。その戦いの凄まじさを目にして、ジョンは「赤い彗星」のようだと感嘆(いくらなんでも、言い過ぎでしょ)。愛機は、ドム】
A.M.ヴァレリー【少将。ジオン公国軍軍人。ビグダブデの艦長】
マックガイア【少将。ジオン公国軍軍人。アデン基地の司令官】

☆地球連邦
インメルマン【連邦軍エースパイロット。「レッドスター」の異名をもつ。パーソナルマークは、赤い星に機体番号の8。愛機は、ジムスナイパーカスタム】
ハルトマン【連邦軍エースパイロット。「銀狐」の異名をもつ。オデッサ作戦で8機のMSを撃破した。愛機は、ジムライトアーマー】




ジョン・クエスト、戦い終えて……

戦いの中で、クエストは戦士として急成長してゆきます。
敵MSの殺気を装甲ごしに感じ、体が自分の意識と無関係に動くまでに。
無意識のうちに、敵MSを撃墜するまでのエースに成長していました。

最後には、ゲド要塞で、ゲルググキャノンを駆る大エースのクランベリーをも激闘の果てに打ち負かしました。

そして、瀕死の重傷を負ったクランベリーから事の真相が告白されます。
クランベリーは、ギレンによってソーラレイシステムから連邦の目をそらすための囮作戦を言い渡されていたのです。
ジオンの最重要機密データというのはデマで、ウソの最重要機密に連邦の目を引きつけ、そのあいだにソーラレイシステム完成の時間をかせぐというものでした。
第18補給基地の戦死者のみんなは、ギレンの立案した陽動作戦の犠牲になり亡くなったのです。
ジオンの同胞を、おのれの意に反してその手にかけなくてはならなかったクランベリーもまた戦争の犠牲者だったのです。

クランベリーは、ジョンにゲド要塞からの脱出方法を教えると、事切れました。

ジョンは基地を脱出します。
地上に出たジョンは、陽光の下で3日間の死闘に想いを馳せました。
……こみあげてくるのは涙と空しさばかり。




少年は戦いの中で成長し英雄になった

決然とした表情でアデン基地へ急ぐジョン。
長い旅、地獄のような戦場、多くの死、大自然の猛威、出会い、別れを経験し、ジョンはもはや以前のジョンではありませんでした。

再会したロベルトに助けられ、ジョンはアデン基地にたどり着きます。
アデン基地は、連邦の掃討作戦を目前にして、兵士の宇宙への引き揚げのため慌ただしさと混沌のうちにありました。

ジョンは基地司令を尋ねます。
軍服はそれが軍服であるとは判らないほどボロボロで、ところどころに赤茶けたシミ……血がこびりついています。
ひどい身なりでした。
しかし、ジョンを目にしたアデン基地司令官マックガイア少将は、
『その少年の顔は、信じられぬくらいりりしく、輝いて見える』
そう思いました。
「アデン基地……総司令、マクガイア少将でありますか」
とのジョンの問いに、マックガイアはうなずきました。
「ジオン陸軍、アフリカ方面第18補給基地、二等整備兵ジョン・クエスト、ただいまアデン基地に到着いたしました」
ジョンを見て、マックガイアはこうも思いました。
『長い人生の間で、これほど誇りに満ちあふれた少年をみたことがなかった』
頼りなかった少年は砂漠の戦いと冒険によって成長し、困難を克服してエースになり、ヒーローになったのです。




『灼熱の追撃』は少年の成長物語、しかし少年の心には空しさだけが残った

12月12日~15日の短期間に、ジョン・クエストはたんなる二等整備兵のMS実戦未経験者から、百戦錬磨のエースパイロット・クランベリー少佐をもMS戦で撃破する凄腕のエースパイロットへと成長しました。
精神的にも成長しました。
『灼熱の追撃』は少年の成長物語。
そして、ヒーロー願望を満足させてくれる少年が主人公の物語。
しかし、そのヒーロー本人は戦いに空しさを覚えていました。




「脱出」……宇宙へ消えた少年と少女

宇宙世紀0079年12月15日、「ジオン軍掃討作戦」がアフリカに吹き荒れようとしているなか、第18補給基地まで戻ったジョンはルリア、基地司令とともに、アデン基地から借り受けたシャトルで宇宙へ脱出します。
しかし、重力圏離脱の衝撃に耐えられず、重傷だった基地司令は亡くなりました……。
第18補給基地の生き残りはジョン・クエストとルリアの二人だけになりました。
二人のその後の行方は、誰も知らないといいます。




久保田雅人……ワクワクさん『つくってあそぼ』で有名だが、自分的には降板させられた?「矢作省吾」『メガゾーン23』


ワクワクさん『つくってあそぼ』で人気者の有名人になるも、直前までやっていた声優業では苦汁をなめたことも

久保田雅人(くぼた まさと、1961~)という俳優、タレントさんがいらっしゃいます。

この方は、NHK教育テレビ(2011年6月1日からNHK Eテレ)の子供向け工作番組『つくってあそぼ』(1990.4.4-2013.3.30)の「ワクワクさん」を演じた方として、そのお名前をご存じの方もいらっしゃるでしょう。
1990年から2013年まで23年間続いた長寿番組の主役ですから、役に恵まれたと申せましょう。
ワクワクさんの名が知られるようになると次第に仕事も増え、全国を回るようになり、年によっては年間300本ほどの講演を行っていたというのですから、仕事が順風満帆であったろうことは容易に察せられます。
また、「ノッポさん」で有名な『できるかな』(1970.4.8-1990.3.9)を引き継ぐ後番組の主役でもあり、「ワクワクさん」に選ばれたのはかなりの幸運を引き当てたと申してよろしいのではないでしょうか。

しかし、わたしは久保田雅人さんが、そのような有名人になっていたとは去年(2019年)までつゆとも知りませんでした。
「ワクワクさん」も『つくってあそぼ』のことも、まったく知りませんでした。

わたしのなかで久保田雅人さんというと、1986年以来2019年にいたる33年間のあいだ、「かわいそうな人だなあ」という印象が強い方でした。




久保田雅人、超ヒット作『メガゾーン23』の主役・矢作省吾役を降板?!

大学生のときから俳優をしていた久保田さんは、間もなく、声優デビューをします。
1985年。
作品は『メガゾーン23』。
その主役の「矢作省吾」です。

『メガゾーン23』は累計26,518本をセールス、OVAとして当時、過去最高の売上を記録しました。
当時のビデオ雑誌にも、それまでのOVA最高のセールスを記録した『メガゾーン23』の「快挙」が報じられていました。

その主役なのですから、久保田さんの声優としての地位は安泰……だったのでしょうか?
さにあらずです。
その翌年86年に、久保田さんに(もしかしたら)屈辱的なできごとが起きます。

続編である『メガゾーン23 Part II』(1986)の矢作省吾役は矢尾一樹(やお かずき)に。
久保田さんは、役をおろされました。
いや、正確にいえば、おろされたのかどうか不明です。
わたしの調べた範囲では、この交代の詳細をつかめませんでした。

ですから、久保田さん本人が出演を拒否したなり、事務所が変わって出演できなくなったなど契約上の都合なりがあったのかもしれません。
それは、わかりませんが、86年当時のアニメファンのほとんどは「久保田雅人は矢尾一樹に矢作省吾役を奪われた」とおもったことでしょう。




二人の矢作省吾『メガゾーン23』……久保田雅人と矢尾一樹

矢尾一樹はすでに大人気声優でした。
「やってやるぜ!!」の野性的な決め言葉が話題になった『超獣機神ダンクーガ』(1985)の主役・藤原忍(第8回アニメGPの男性キャラクター部門で「上杉達也(タッチ)」「シャア・アズナブル(機動戦士Zガンダム)」に次ぐ第3位を受賞)でブレークし、『機動戦士ガンダムZZ』(1986)の主役であるジュドー・アーシタ役に抜擢されるなど、矢尾は若き大スター。

かたや、久保田さんは声優活動をつづけるも、お世辞にも活躍中とは言いがたい……まあ、無名の存在だったわけです。
その状況で、久保田さんから矢尾一樹に矢作省吾役が移ったわけですから、「久保田雅人は降板させられた」と多くの人が思うのもしかたのないことでしょう。
その真の理由をいまでもわたしは知りませんが、いまも「あれは、おろされたんだろうなあ」と思っています。

【ちなみに、『オリジナルビデオアニメ(OVA)80'S テープがヘッドに絡む前に』(出版ワークス、2018)という書籍には、現物をもちあわせていないので詳細は不明なのですが、矢尾一樹がインタビューで「久保田雅人は、引っ越しを手伝ったこともあるくらい知人だった」と発言しているとのこと。
久保田さんにとっては自分の役が知人(どれだけ親しかったかは不明ですが)へ、矢尾からしてみると知人の役が自分へまわってきたことになります。
相手のことを大なり小なり知っているだけに、見ず知らずよりも、けっこうきつそうです……】




久保田雅人の矢作省吾は、正直、ひどすぎた……

それに、ワクワクさんとして仕事で成功したいまだから言えますが、声の魅力、声の演技ともにさほどではない……というのが正直な感想です。
声の演技にいたっては、デビュー作にしてもひどすぎるな、と。
「この人、しろうとなのかな?」と思っていました。
人間関係や仕事関係などの大人の事情によって主役を獲得したのかな、と。
売り出し中の俳優や歌手やアイドルにちょっとでも箔をつけさせるため主役をあてがったのではないか、などとすら思いました。




『メガゾーン23』で声優デビューした二人……声優で成功をおさめることができなかった久保田雅人(主役)と、のちの大声優・山寺宏一(脇役)

『メガゾーン23』で声優デビューした人がほかにもいます。
山寺宏一でした。
いまや日本声優界の歴史に残ること間違いなしの大声優ですが、デビュー作で演じたキャラクターは、矢作省吾の親友で、矢作が事件に巻き込まれるそもそもの原因をつくった役どころですが、セリフは二言三言だけ、登場して2分足らずで軍部の機密を漏洩(ろうえい)したかどで軍人に射殺されてしまう脇役でした。

そんな、中川信二(なかがわ しんじ)というチョイ役もいいところの役柄で声優デビューした山寺ですが、声の魅力、声の演技はこのころからかなりのもの。
かっこよすぎる声、安定した声の演技。

言ってはなんですが、おなじ声優デビューでも、脇役のほうが主役よりもよほど主役らしい声と演技の魅力に富んでいます。
これは、わたしだけの感想ではないようで、ネットでも「省吾と信二の会話を聴いて、どちらがうまいか一目瞭然」(もちろん、中川信二=山寺宏一のほうがうまいということです)という意見を見かけました。

かように、知名度なし、声の演技良からず、では『Part II』において降板させられたと信じて疑わないのも無理からぬことでしょう。

【ちなみに、『Part I』(85)、『Part II』(86)に対し、ちょっと間を置いて三年後に制作された『メガゾーン23 III』(89)は、『メガゾーン23』声優同窓会とも呼べるような配役がなされていて、山寺宏一、矢尾一樹とともに久保田さんも出演しています。
(ほかに前2作のヒロイン・高中唯役の川村万梨阿。
さらには偶然なのか故意なのか、『メガゾーン23』と関係の深い『超時空要塞マクロス』の主役・一条輝役の長谷有洋、ヒロインの一人・早瀬未沙役の土井美加)
しかし、矢作省吾役はもちろん矢尾一樹(『III』では主役でなく、出演時間も短いのですが)。
『PART I』では出演時間一分前後であった山寺宏一は、男性キャラクターでは主役のエイジ・タカナカとそのライバル(?)にあたるピーター・ヤコブ(※1)に次いで3番目に重要だと思われるシオンを演じています。
一方『Part I』の主役を演じた久保田さんは、クラックという、いまだに作中の誰だかわからない……ただ、たしかなことは主要人物でないことだけはたしかなキャラクターを演じていました。
85年から4年、あまりにも正直すぎる声優としての評価と申せましょうか】

【※1……ヤコブの声優は『聖戦士ダンバイン』(1983)のニー・ギブンなどを演じた安宅誠(あたか まこと)。
アニメ作品への出演はそう多くありませんが、自分的には日本声優界でも有数の美声の主だと思っています】




声優で大成しなかったからこその大成功? 久保田雅人、矢作省吾からワクワクさんへ

けっきょく、声優として、久保田さんは大成しませんでした。
しかし、『メガゾーン23』からは5年、『メガゾーン23 Part II 秘密く・だ・さ・い』からは4年、『メガゾーン23 III』からは1年足らずのちに、「ワクワクさん」という当たり役に恵まれました。

屈辱と辛酸をかなりなめたかもしれない声優業のあとに、陽がさしたのです。
不遇をかこっている方たちには(わたしもその一人ですが)、もしかしたらその役者人生からは希望がもらえるかもしれませんね。



『機動戦士ガンダム』ゲームブック……忘れられた超マイナーな「ガンダム」たち(『機動戦士ガンダム 灼熱の追撃』)


『ガンダム』のゲームブック

80年代後半に、宇宙世紀ガンダムを題材にしたいくつかのゲームブックが出版されました。

『機動戦士ガンダム 最期の赤い彗星』(86)
『機動戦士ガンダム 灼熱の追撃』(86)
『機動戦士Zガンダム ジェリド出撃命令』(87)
などです。
(3冊とも、OVA『ポケットの中の戦争』(89)に連動したとおもわれる改訂版が89年に発売されています)




あまりにも、あまりにもマイナーなゲームブック、それゆえ愛着もひとしおか?

ゲームブックは、アニメやそれに次ぐ漫画・小説・テレビゲームなどと違い、『ガンダム』世界では日陰ものゆえ、手に取って読破した人たちは少数だと思いますが、それゆえにこそ「ダメな子ほどかわいい」という心境から思い入れのある方たちもけっこういらっしゃるのではないでしょうか。
「自分たちだけが知っている」というマイナーな雑誌やラジオ番組、漫画家、アーティスト、アイドルなどを応援する気分に似た心理を抱いている方もいらっしゃることでしょう。

わたしは残念ながら、『ガンダム』のゲームブックを一冊も読んだことがありません。
いまや、マイナーゆえの希少価値から古本も高価で、入手するにもなかなかに勇気のいる状況であります。




『閃光のハサウェイ』よりマイナーな、世界の片隅にいた『ガンダム』ゲームブックたち

わたしは発売当時、富野由悠季『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(上)』(89年)を購入して読んだことがあり、アニメにまったく関係ない小説『閃光のハサウェイ』を読んでいることに、少数者ゆえのマニアックな喜びを抱いていました。
しかし、作者が大御所の富野由悠季であり、いまほどアニメ以外の『ガンダム』がさほど注目されていなかった時代とはいえ、それなりにメジャーな小説です。
無名の作者による、ゲームブックなどという傍流中の傍流とは比較にならないかもしれません。

ゲームブックをかつて読んでいた方たちの「おれだけが、この作品の良さをわかっているんだ」という、選ばれた少数者の愉悦(ゆえつ)はいかばかりであったことでしょう。
じっさい、わたしが『ガンダム』では『ZZ』『逆襲のシャア』や小説『機動戦士ガンダム』(富野喜幸、ソノラマ文庫)を観たり、読んだりしていた時代に、「世界の片隅」感いっぱいの『ガンダム』ゲームブックを愛読していた方たちには、ある種、自分がやれなかったことをしていたことへの羨望をすら覚えます。
名門学校への憧れのような、『ガンダム』偏差値の高さへのうらやましさを。
(むろん、ゲームブックを読んでいるだけでそれが決まるわけではありませんが、あまりにもマイナーすぎるものに時をついやしていたのですから、そのレアさからかなりの偏差値をかせいだと言えるのではないでしょうか)

とくに、シャア、ジェリドが主役の『最期の赤い彗星』『ジェリド出撃命令』と違い、無名の16歳の少年ジョン・クエストなるジオン公国軍の二等整備兵が主人公という、「よく企画を通ったな」ものの『灼熱の追撃』というマイナー中のマイナー作品の読者には。




『灼熱の追撃』その時代

『灼熱の追撃』のあらすじをご紹介します。
(※ネタバレあり)

0079年12月12日~12月15日の物語です。
『ポケットの中の戦争』では、12月12日にRX-78NT1アレックスがサイド6のリボー・コロニーに搬入、13日にはリボーにおいてバーニィとアルが出会い、14日には月の裏側の月面都市グラナダでバーニィがサイクロプス隊に合流、15日には偽装貨物船アグワベルデに搭乗したバーニィがリボー近傍宙域での陽動作戦にまぎれてリボーに入港しています。
大局的には、14日に連邦軍が星一号作戦を発動。
ちなみに、12月の24日にソロモンの戦い、25日にクリスマス作戦、31日にア・バオア・クーの戦いが宇宙ではおこなわれています。




ジョン・クエスト……少年は戦いの旅に出る

主人公は、ジオン公国軍の二等整備兵(上等兵に相当)でMSの実戦経験のないジョン・クエスト。
16歳。
学徒動員令によって召集された新兵です。

クエストが赴任した第18補給基地(アフリカ/タンザニア地区/キリマンジャロ近傍)は、突然、ジオン公国軍の有名なエースであるクランベリー大佐率いる5機のMS部隊に襲撃されました。
味方であるはずのジオン公国軍人クランベリー率いるMS部隊「鉄のサソリ」に、基地は奇襲されたのです。
約30名いた基地の兵士たちのなかで襲撃から生き残ったのは整備兵のクエスト、従軍看護婦のルリア(18歳)、そして、重傷を負い生命の危うい基地司令のたった3名のみ。

基地司令によると、第18補給基地には新兵器に関する最重要機密データが保管されていて、クランベリーはその機密を奪い、連邦と取引をしようとしているのだろうとのこと。
生存者のなかで唯一、MSを操縦可能なクエストに、基地司令はクランベリーたちの追跡、追討、最重要機密データの奪還を命令。
こうして、満足にMSを操縦したことのないジョン・クエスト二等整備兵は、MSに搭乗し、「鉄のサソリ」を追う旅に出る羽目になりました。




ジョン・クエスト……少年兵の砂の大地の戦い

結果的には、キリマンジャロ近傍タンザニア地区の第18補給基地からアフリカの砂漠地帯を縦断し、ゲド要塞(エチオピア高原)で「鉄のサソリ」との戦いに決着をつけ、最終的にはアラビア半島の南端にある宇宙港アデン基地(イエメン)まで、長大な冒険を経験することになります。

折あしく、2、3日後に展開される「ジオン軍掃討作戦」のため、アフリカの大地にはかなりの数の連邦軍先遣隊が入り込んでいました。
クランベリー率いるMS部隊「鉄のサソリ」のほか、アフリカ各地に展開する連邦軍もまたクエストの前に立ちはだかります。
連邦の狩り場と化したアフリカ。
ただ、本格的なジオン掃討のための軍隊投入にはわずかながらも猶予があるため、各地に分散した連邦軍先遣隊はそれぞれが比較的小規模であるというのが救いといえば救いでした。

ゲルルググキャノン、ドム、グフ、デザートザク、ジム、ジムキャノン、ジムライトアーマー、ジムスナイパーカスタム、ガンタンクII、ガンタンクIII、コアブースター、78式浮行戦車(連邦のホバー推進戦車。ビームライフル並の威力をもつビーム戦車砲を搭載して「MSキラー」の異名をもつ。MSと互角に戦えるコアブースターのような数少ない非MS兵器)などなどと死闘を繰り広げるクエスト。

戦いの中で、クエストは人間としても戦士としても急成長してゆきます。
最後には、ゲド要塞で、ゲルググキャノンを駆るクランベリーをも激闘の果てに打ち負かしました。




明かされた真実 砂漠地帯で遂行されたギレンの陰謀

そして、瀕死の重傷を負ったクランベリーから事の真相が告白されます。
クランベリーは、ギレンによってソーラレイシステムから連邦の目をそらすための囮作戦を言い渡されていたのです。
ジオンの最重要機密というのはデマで、ウソの最重要機密に連邦の目を引きつけ、そのあいだにソーラレイシステム完成の時間をかせぐというものでした。
第18補給基地の戦死者のみんなは、ギレンの立案した陽動作戦の犠牲になり亡くなったのです。
ジオンの同胞を、おのれの意に反してその手にかけなくてはならなかったクランベリーもまた戦争の犠牲者だったのです。




『灼熱の追撃』は少年の成長物語

12月12日~15日の短期間に、ジョン・クエストはたんなる二等整備士のMS実戦未経験者から、百戦錬磨のエースパイロット・クランベリー少佐をもMS戦で撃破する凄腕のエースパイロットへと成長しました。
『灼熱の追撃』は少年の成長物語。
そして、劇的に自分の名声・名誉を上げたいと願う人たちのヒーロー願望を満足させてくれる少年が主人公の物語なのです。




そして少年はヒーローに

戦い終えてアデン基地(イエメン)にたどり着いたクエストを目にしたアデン基地司令官マックガイア少将は、『その少年の顔は、信じられぬくらいりりしく、輝いて見え』たといいます。
また、『マックガイアは、長い人生の間で、これほど誇りに満ちあふれた少年をみたことがなかった』と。
頼りなかった少年は砂漠の戦いと冒険によって成長し、困難を克服してエースになり、ヒーローになったのです。




少年と少女は砂漠から宇宙へ

宇宙世紀0079年12月15日、「ジオン軍掃討作戦」がアフリカに吹き荒れようとしているなか、第18補給基地まで戻ったクエストはルリア、基地司令とともに、アデン基地から借り受けたシャトルで宇宙へ脱出します。
しかし、重力圏離脱の衝撃に耐えられず、重傷だった基地司令は亡くなりました……。
第18補給基地の生き残りはクエストとルリアの二人だけになりました。
二人のその後の行方は、誰も知らないといいます。



『かまいたちの夜』……冬の夜の雪山は、恋人たちの熱き吐息あり、殺人事件あり、死者の霊魂の呼ぶ声あり?    ※ラストの重要なネタバレあり


『かまいたち』の吠える冬『の夜』の雪山には……まあ、ともかく……気をつけたまえ

『かまいたちの夜』(1994)は、友達以上恋人未満のヒロインと夜の雪山のペンションでゴールインする期待に胸をふくらませる主人公が、一生の良い思い出どころか、終生の悪夢ともいうべき暗い暗い事件に巻き込まれるというおはなしでした。
そこに、冬のつむじ風に乗ってやって来て刃物で切りつけたような鋭い傷を負わせるも、まったくその姿を視認することができない妖怪「鎌鼬(かまいたち)」の伝説をからませたのがタイトルの由来。

主人公は、スキーそっちのけでヒロインとの「夜のアレ」のことしか考えていません。
前半は、もう、そればっかり。
平和といえば平和なのでありますが、そんな能天気な主人公が、後半には殺人事件の渦中に。
しかし、その殺人事件よりも暗い、あまりにも救いのない暗いできごとがラストに主人公とヒロインを待ちかまえています。

(※ネタバレ)
殺害された女性の恋人が、犯人をつかまえた事件解決直後、みずから命を絶ってしまうのです。
恋人を失い、生きる気力をなくし、世をはかなんだすえの悲しいできごとでした。
主人公たちにとっては、知り合ってから日は浅いものの、事件を解決する過程で仲間になった、いわば戦友。
その友人が、戸外で荒れ狂う猛吹雪のなか、不気味な静寂が支配する凍てついた夜の雪山のペンションの一室で生命を絶ち、主人公たちは突然の悲劇にただ立ちすくんだまま、物語の終幕をむかえます。




夜の雪山は「そういう」場所なのだよ……

ヒロインの真理と「男女の仲」になることのみこだわりつづける序盤の透(主人公)は、もしかしたら、中盤からの殺人事件、そしてそれ以上かもしれないラストの悲劇を浮き彫りにするための道化役だったのかもしれません。
喜劇→悲劇への対照的な展開によって、より悲劇性を強めるための。

しかし、序盤、あまりにもそればっかりであったため、わたしは、『かまいたちの夜』をプレイした90年代半ば以降、雪山の夜=「そういうことばかりがおこなわれている」というイメージにつきまとわれることに。
そうでなくとも、若者雑誌でスキー場と言えば「恋の出会いの場」だの「恋人とロマンチックな夜を」などのフレーズが乱舞しています。
そのうえでの『かまいたちの夜』。
20代半ばだった青年がおよそ25年たって40代後半になったいまでも、就寝直前の真っ暗な室内の寝床で横になりながら、重い静寂の垂れこめた真冬にふと、『雪山はいまごろアレだよなあ……』とぽつり心のうちで思うのは、『かまいたちの夜』の影響、色濃いことは確実でしょう。




男体山をご存じかね? 栃木県日光市にある……あれは良い雪山だよ

そんなとき、わたしが連想する雪山というのは圧倒的に男体山(なんたいさん)です。

男体山は栃木県日光市に存します。
標高2,486m。
関東地方では有数の高山。
成層火山特有の円錐形のかたちをしておりまして、富士山に似ていますので「下野富士」の異名がありますが、わたしの見たところ「富士山みたいか?」と問われたなら「べつにぃ」なのであります。
富士山とはまた別の魅力をもった美しく神々しい山容をしているというのが、わたくしの感想。

栃木県の各地からその姿を望むことができ、東照宮や中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)や華厳の滝(けごんのたき)のある日光を代表する山といえば男体山であります。
それどころか、栃木を代表する山と申してよろしいでありましょう。




補陀落浄土とはよく言ったものだ、魂が吸い込まれそうではないか

2020年2月1日土曜日、15Km前後はなれた近隣の市に自転車で行ってまいりました。
そこにある、とある山といいましょうか丘といいましょうか、その標高80mの頂上から北天を遠望すると男体山など日光連山の山々が遠く、しかし、けっこうな大きさで見晴るかすことができました。

男体山は日光修験(しゅげん)の中心地。
観音菩薩の住まわれる観音浄土……補陀落浄土(ふだらくじょうど)と見なされていました。
そこは、あらゆる願いが聞き入れられ、観音菩薩の救いにより安らかな境地に満たされる「どこかにある理想郷」。
おそらくは、その荘厳で神秘的な山容が、観音菩薩の住まいを彷彿(ほうふつ)とさせたのではないでしょうか。

冬の雪山は美しい……しかし、見ているうちに、じんわりと不安がわいてきます。
魂が引き寄せられるような感覚に襲われるのです。
ぼうっとした靄(もや)のかかった幻のような白亜のたたずまいは、その周囲に、この世ならぬ雰囲気をまといつかせています。
死の観念を呼び覚ますような、白く淡い朧(おぼろ)な眺めとでも言いましょうか。

あの世へと通じているかのような雪山に、魂がいざなわれるような錯覚を、ふと感じてしまうのです。




雪が降っている? 今夜、雪山でかまいたちが荒れ狂うかもしれないな

男体山は、山頂がけむっていました。
雪が降っていたのではないでしょうか。
恋人たちに、ロマンチックな白い彩りをそえていたことでしょう。
しかし夜になると雪は、視界をさえぎり、聴覚をふさぎ、家屋を他から孤立させます。
そんな夜には、かまいたちによる殺人事件が起きても不思議はないな、と男体山を遠く見晴るかしてそんなことを想っていました。




死者の霊魂の声が聞こえないのは幸いだな……だから冬の夜の雪山はロマンチックなのだよ

その日は土曜日。
土曜の夜ともなると雪山の旅館やペンションは宿泊客でにぎわうでしょう。
『そうなると、やはり、今夜は……』
北にそびえる山嶺(さんれい)に目を留めながら、やはり、最後はそちらへと……下世話なほうへと関心は流れてゆきました。

古来より今にいたるまで、遭難や事故で多くの方たちが冬の雪山で亡くなっています。
その雪山がロマチックな恋人たちの聖地というのも奇妙なものですが、死者の霊魂の声を聞くことのない人々は、今夜も冬の雪山で熱い吐息を交わし合っているのでしょう。



アンマン(エゥーゴの秘密の本拠地)……地球から遠い月の裏側の秘密基地(『機動戦士Zガンダム』)


月の裏にうごめくもの

月の裏側は、どうあっても地球からは目視できません。
月は絶えず一方向だけを……表側を地球に向けています。
月の裏側は、穏やかな月の表側のその向こうにあって、我々からはヴェールにつつまれています。

ですから、秘密の策動に月の裏側はうってつけです。
『機動戦士Zガンダム』で、反地球連邦組織エゥーゴが連邦……とくにティターンズの目を盗んで「影の本拠地」を築いていたのはその典型例の一つではないでしょうか。




月面都市アンマン

アンマンの魅力を伝える一文を紹介しましょう。
『機動戦士Zガンダム大事典』(ラポート 1986)から抜粋いたします。

「アンマン(8話~)
グラナダの近くにある月面都市の一つ。
アナハイム・エレクトロニクスの企業都市とも言えるものである。
資源採掘の為に縦横に鉱道(坑道)が走っており、深さとしては原水爆の直撃を受けても大丈夫であろうものまであった。
その為、機密保持、工業施設等の条件が揃いやすくエゥーゴの艦艇、M・S(MS)等はほとんど、がここで製造されていた。
影の本拠地である」




アンマン……エゥーゴの月の裏側の影の本拠地

ここには書かれていませんが、地球連邦の本拠地である地球からは見えないというのも機密保持などのためには好都合だったでしょう。
さらに、深い深い坑道が縦横に走っているというのは「秘密基地」にとって申し分ない条件でありましたでしょう。
このような地球からは遠く、かつ見えにくい辺地においてエゥーゴはティターンズ打倒のための策動をおこなっていたのです。
まさに「影の本拠地」でした。




月の裏側の戦い

そのため、アンマンとその周辺ではさまざまな戦いが起きました。

サイド1の30バンチで散っていったライラ・ミラ・ライラの仇討ちのため、ジェリドはライラの愛機と同じガリバルディβでカミーユのMk-IIに戦いを挑みました(8話)。

クワトロ(シャア)とカミーユの留守中に、カクリコン率いるハイザック部隊がアンマンの港を急襲、リックディアスに搭乗するエマは苦戦しますが、エマの危難を察知したカミーユが駆けつけてカクリコン隊を撃退。
この戦いの直前、愚痴をこぼしながらもチキンバーガーを豪快に食べていたことが一部のファンのあいだでちょっと有名なキッチマンがアンマン近傍のこの戦いで散っていきました(9話)。

マラサイに乗ったジェリドとカクリコンは、2機を1機に見せかける戦法でカミーユを苦しめるも、クワトロやウォンの援護によって二人を撃退しました(10話)。




月の裏側の秘密基地

秘密基地という語感には、あやしい魅力があります。
隠蔽(いんぺい)された神秘的な隠れ家といったような。

秘密基地は見えにくいところに、これは鉄則です。
子供たちの秘密基地が大人に発見されにくい場所にきずかれるのは、わたしの幼少の経験からも、浦沢直樹の漫画『20世紀少年』からも容易に想像できます。

エゥーゴにとってその最大のものがおそらくはアンマン。
地球から遠く、地球から見えず、深い坑道が入り組んで迷路状になっているアンマンとその近辺は秘密基地におあつらえ向きでした。
人家から遠く(「地球から遠く」に相当)、丈の高い草や木などで外界からさえぎられていてその存在が気づかれにくい(「地球から見えず」「深い坑道が入り組んで迷路状」に相当)ならば子供の秘密基地として最適ではないでしょうか。
鎮守の森(ちんじゅのもり)や神社林(じんじゃはやし)が外界との境界になっている無人の神社や、人の背丈よりも高い葦(あし)などに周りを囲まれた湿地帯の沼なども、秘密の場所として適地でありましょう。
そのような場所では、他人に気兼ねすることなく、さまざまな試みや企てが許されます。
子供たちの秘密基地では、エロ本を読むのも自由!
(※良い子はマネしてはいけません)
湿地帯の沼地では、葦でさえぎられているのをいいことに青空のもとで恋人同士が……。
(※これ以上は自粛)
ともかく、他人の目のある場所ではしにくいことも大胆に。
まさに、それこそがエゥーゴにとってはアンマンだったのでしょう。

アンマンからティターンズ打倒の策謀と、サラミス改などの艦艇やネモなどMSが製造されてつぎつぎと戦地へ送り出されていきました。
グリプス戦役に勝利して宇宙世紀の歴史を変えたエゥーゴ、その勝利に貢献したアンマンも宇宙世紀の歴史を大なり小なりつくり出した歴史的な都市と言えるのではないでしょうか。