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ア・バオア・クーの名称の由来である幻獣ア・バオ・ア・クゥーはけっこう哲学的『機動戦士ガンダム』



ア・バオア・クー


『機動戦士ガンダム』最終決戦の地である宇宙要塞ア・バオア・クーの名は、インドの幻獣である『ア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Q)』がもとになっています。




ア・バオ・ア・クゥー


このア・バオ・ア・クゥー、けっこう哲学的な幻の生き物なのです。

ア・バオ・ア・クゥーは、インドのチトールにある「勝利の塔」に棲息しています。
チトールがどこかについては諸説ありますが、そのなかでも有力なのがジャイナ教の「勝利の塔」があるチトール。

ジャイナ教は、仏教とほぼ同時代の紀元前6~紀元前5世紀に創始された宗教です。
当初、ジャイナ教は仏教と同様に人々の「平等」を口説いて信仰が盛んでした(当時のインドの支配的宗教であるバラモン教は、神々につかえる聖職者を頂点とする「不平等」を旨とする宗教でした)が、歳月とともに衰え、現在ではおよそ信徒数450万人(インド全人口の0.5%未満)。

ジャイナ教は、厳しい修行、厳格な禁欲と同時に、徹底した不殺生主義で知られています。
ジャイナ教徒は、ほうきを手にし、口をマスクで覆ったかっこうを普段からしていますが、ほうきは虫を踏みつぶさないようによけるため、マスクは虫を吸い込まないためなのです。
暗くなってからは、虫が口にはいらないよう夕食は摂らない。
ジャイナ教にとっては、虫すらも「不殺生」の対象なのです。
そのジャイナ教の「勝利の塔」(異説はありますが)に住む幻獣の名前を踏まえたア・バオア・クー要塞で、人は一年戦争でも屈指の殺し合いをしたのですから皮肉なものです。




報われない幻獣ア・バオ・ア・クゥー


さて、ア・バオ・ア・クゥーです。
ア・バオ・ア・クゥーは透明で不定形、桃の皮のような感触のする肌をもった生き物。

棲息する「勝利の塔」は、屋上へとつづく螺旋階段を登りきると、その人は涅槃(ねはん)に達することができます。
ア・バオ・ア・クゥーは、最下層……螺旋階段の初めの段でいつもは眠っています。

涅槃を目指した挑戦者があらわれると、ア・バオ・ア・クゥーは目を覚ます。
ア・バオ・ア・クゥーは人間の影に敏感に反応し、人間の踵をとらえ、その人間に付き添い、「勝利の塔」を登っていきます。

この透明な幻獣は、一段登るごとに青味をおびた輝きを増していく。
屋上に達すると、完全な姿をあらわします。

しかし、涅槃に達した人間は影を失います。
人間の影をとらえることができなくなったア・バオ・ア・クゥーは、屋上に到達することができない。
あとわずかのところで、無情にも寄る辺であった人間の影に見放されてしまいます。
哀れにも、もう一歩のところで完全な姿になる願いをかなえられなかったア・バオ・ア・クゥーは、輝きを失い、苦痛にさいなまれ、苦痛から絹のすりきれるような微かなうめき声を発しながら、最下層まで転がり落ちてしまいます。
もとの透明になった「勝利の塔」の幻獣は、そこで次の登段者がおとずれるのをまた待つことになります。




幻獣のかなわぬ夢


どうでしょう?
挫折。
目前でついえる願い。
かなわぬ夢に焦がれる気持ち。

身につまされる人もいらっしゃるのではないでしょうか?
(わたしは、つまされまくり)

夢の成就を他人頼みでただ待つしかないというのもよくありそうです。
運頼みであるなら、わたしもしょっちゅうです。

アムロは、モビルスーツに乗り英雄になりました。
「ロボットを手にいれることができれば自分だって……」という願望を、ロボットアニメに投影している人もいらっしゃるでしょう。
『シンデレラ』のように王子様を、『聖闘士星矢』のようにコスモを、『ドラえもん』のようにドラえもんを、「あんなこといいな、できたらいいな」と求めてやまない人はけっして少なくないでしょう。
ア・バオ・ア・クゥーにとってそれは、涅槃を目指し「勝利の塔」を登りきる人間でした。



自分の能力や魅力では夢をかなえられない人間(わたしもその一人)の寓意が、ア・バオ・ア・クゥーなのかもしれません。
螺旋階段を転げ落ちるときの苦痛のうめき声は、夢をかなえられない我々人間の悔しさや絶望の慟哭と同じものなのかもしれません。
夢がかなう直前にそれがついえたときの我々の挫折感を、ア・バオ・ア・クゥーなら理解してくれるかもしれません。




人間のかなわぬ夢


思えば、宇宙要塞ア・バオア・クーの主であるギレンも、連邦への勝利を確信しながら妹のキシリアに背後から頭を撃ち抜かれて死んでいきました。

ニュータイプによる世界の変革を夢見た人たちは、それが達成されない現実に後々直面します。

シャアは、母親になってもらいたかったララァを自分のせいで戦死させてしまいました。

ハヤトは憧れのフラウ・ボゥと結婚しました……。



ちなみに、ア・バオ・ア・クゥーが「勝利の塔」螺旋階段の最上段に到達したのは、たった一度きりだといいます。


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