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川原泉『森には真理が落ちている』……雪村霙(みぞれ) ケーキ 誕生日



『森には真理が落ちている』


今日(2019.5.12)は、母の日です。
わたしには、母の日や父の日、誕生日やクリスマス、正月など特別な日にごちそうを食べるとき思い出すマンガがあります。

川原泉の作品で、題名はいままで忘れていましたがネットで探してみると『森には真理が落ちている』(1987年『花とゆめ』に掲載)。
ネットによると『笑う大天使(ミカエル)』2巻に収録されているとのこと。
少女漫画雑誌は一度も読んだことがないので(少女漫画はもっぱらコミック、少女漫画じたいも20代になってからはほとんど読まなくなりました)、コミックが発売された88年ごろに読んだのでしょう。




川原泉


川原泉はわたしの一番好きな少女漫画家。
いまはなきアニメ雑誌『OUT』の編集者が川原泉を猛烈にプッシュしていたので87年ごろ……高校1年ごろから読みはじめました。

川原泉の作風は、基本はギャグ。
ふだんは通常頭身ですが、ギャグになると2頭身、3頭身になるといったもの。

わたしは、主人公の女の子たちが、なにやら覚めた目をし、心も覚めているように見えるところに惹かれました。
女の子が、ちょっと悟っちゃっているふうなんですよね。
クールというのともちがって、そういう意識的に澄ましているのではなく、感情が希薄といいましょうか。
ギャグマンガの主人公の女の子は、たいてい、感情の波がはげしい……クールを装っていてもそれは芝居で、いざとなったら感情を爆発させるといったようなところがありますが、川原泉作品の女の子たちは本当に感情の起伏がとぼしい。
大事件が起きても、あまりあわてない。
ヌボーっとした茫洋たる目で、虚空に目をさまよわせている感じなのです。
なにか不思議なのです。
川原泉は哲学にも興味をもっているようなので、もしかしたら、その影響もあるのかなと。
つまみ読みした程度ですが、老荘思想とか実存主義とか、哲学にはあせらずゆっくり生きようという人生観が多いようですから。

この超然としたヒロインと、マイペースなヒロインや周囲の状況にふりまわされる相手役男子(作品によっては、相手役男子も超然としている場合がありますが)の対比の妙もいいんですよね。
川原泉作品は、基本、精神的なタフさでは女性上位なのです。
ヌボーっとしていても、女の子がかっこいいのです。




雪村霙(ゆきむらみぞれ)のバースデーケーキ


ところで、なぜ、特別な日のごちそうで川原泉作品を思い出すか。
『森には真理が落ちている』のヒロイン雪村霙(ゆきむら みぞれ)は、両親のいない高校3年生。
一人暮らしをしています。
まずしいため、ごちそうは特別な日のみ。
たとえば自分の誕生日、自分のためにちょっと大きなバースデーケーキを買って一人で祝うのです。

そのときの絵がですね。
2頭身のヒロインが、部屋のなか独り、テーブルのうえに載ったごちそうのケーキを見て、口を大きく開けてニカーっと笑っているのです。

『森には真理が落ちている』は、タイトルも内容もすっかり忘れていましたが、このシーンだけはずっと鮮明におぼえています。

なにか、いじらしいのです。
一人で自分の誕生日を祝う。
バースデーケーキが数少ない一年のうちのごちそう。
バースデーケーキを見て、あそこまで喜ぶ……。



ネットには、わたしが探しあてた範囲だけだとこの場面についての言及が一件ありました。
「『森には真理が落ちている』でみなし子の女のこがドテラ姿でケーキにろうそくたてて、一人で自分の誕生日祝っているいじらしい姿にないた」(1999.12.17)
とのこと。
まったくの同意。



両親のいない方。
母親のいない方。
父親のいない方。
あるいは、父母になんらかの不幸がある方。
わたしはそういう方たちこそが、母の日/父の日の主役だとおもっています。
わたしの父母は健在ですが、そうおもいます。
母の日/父の日というのは、父母のいらっしゃらない方たちにとってはつらい日かもしれませんが、言葉にはうまくできないのですが、母の日/父の日の主役はそういう方たちだとおもっています。
その理由の一つが、川原泉森には真理が落ちている』の雪村霙のケーキのシーンなのです。



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