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『かまいたちの夜』……冬の夜の雪山は、恋人たちの熱き吐息あり、殺人事件あり、死者の霊魂の呼ぶ声あり?    ※ラストの重要なネタバレあり


『かまいたち』の吠える冬『の夜』の雪山には……まあ、ともかく……気をつけたまえ

『かまいたちの夜』(1994)は、友達以上恋人未満のヒロインと夜の雪山のペンションでゴールインする期待に胸をふくらませる主人公が、一生の良い思い出どころか、終生の悪夢ともいうべき暗い暗い事件に巻き込まれるというおはなしでした。
そこに、冬のつむじ風に乗ってやって来て刃物で切りつけたような鋭い傷を負わせるも、まったくその姿を視認することができない妖怪「鎌鼬(かまいたち)」の伝説をからませたのがタイトルの由来。

主人公は、スキーそっちのけでヒロインとの「夜のアレ」のことしか考えていません。
前半は、もう、そればっかり。
平和といえば平和なのでありますが、そんな能天気な主人公が、後半には殺人事件の渦中に。
しかし、その殺人事件よりも暗い、あまりにも救いのない暗いできごとがラストに主人公とヒロインを待ちかまえています。

(※ネタバレ)
殺害された女性の恋人が、犯人をつかまえた事件解決直後、みずから命を絶ってしまうのです。
恋人を失い、生きる気力をなくし、世をはかなんだすえの悲しいできごとでした。
主人公たちにとっては、知り合ってから日は浅いものの、事件を解決する過程で仲間になった、いわば戦友。
その友人が、戸外で荒れ狂う猛吹雪のなか、不気味な静寂が支配する凍てついた夜の雪山のペンションの一室で生命を絶ち、主人公たちは突然の悲劇にただ立ちすくんだまま、物語の終幕をむかえます。




夜の雪山は「そういう」場所なのだよ……

ヒロインの真理と「男女の仲」になることのみこだわりつづける序盤の透(主人公)は、もしかしたら、中盤からの殺人事件、そしてそれ以上かもしれないラストの悲劇を浮き彫りにするための道化役だったのかもしれません。
喜劇→悲劇への対照的な展開によって、より悲劇性を強めるための。

しかし、序盤、あまりにもそればっかりであったため、わたしは、『かまいたちの夜』をプレイした90年代半ば以降、雪山の夜=「そういうことばかりがおこなわれている」というイメージにつきまとわれることに。
そうでなくとも、若者雑誌でスキー場と言えば「恋の出会いの場」だの「恋人とロマンチックな夜を」などのフレーズが乱舞しています。
そのうえでの『かまいたちの夜』。
20代半ばだった青年がおよそ25年たって40代後半になったいまでも、就寝直前の真っ暗な室内の寝床で横になりながら、重い静寂の垂れこめた真冬にふと、『雪山はいまごろアレだよなあ……』とぽつり心のうちで思うのは、『かまいたちの夜』の影響、色濃いことは確実でしょう。




男体山をご存じかね? 栃木県日光市にある……あれは良い雪山だよ

そんなとき、わたしが連想する雪山というのは圧倒的に男体山(なんたいさん)です。

男体山は栃木県日光市に存します。
標高2,486m。
関東地方では有数の高山。
成層火山特有の円錐形のかたちをしておりまして、富士山に似ていますので「下野富士」の異名がありますが、わたしの見たところ「富士山みたいか?」と問われたなら「べつにぃ」なのであります。
富士山とはまた別の魅力をもった美しく神々しい山容をしているというのが、わたくしの感想。

栃木県の各地からその姿を望むことができ、東照宮や中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)や華厳の滝(けごんのたき)のある日光を代表する山といえば男体山であります。
それどころか、栃木を代表する山と申してよろしいでありましょう。




補陀落浄土とはよく言ったものだ、魂が吸い込まれそうではないか

2020年2月1日土曜日、15Km前後はなれた近隣の市に自転車で行ってまいりました。
そこにある、とある山といいましょうか丘といいましょうか、その標高80mの頂上から北天を遠望すると男体山など日光連山の山々が遠く、しかし、けっこうな大きさで見晴るかすことができました。

男体山は日光修験(しゅげん)の中心地。
観音菩薩の住まわれる観音浄土……補陀落浄土(ふだらくじょうど)と見なされていました。
そこは、あらゆる願いが聞き入れられ、観音菩薩の救いにより安らかな境地に満たされる「どこかにある理想郷」。
おそらくは、その荘厳で神秘的な山容が、観音菩薩の住まいを彷彿(ほうふつ)とさせたのではないでしょうか。

冬の雪山は美しい……しかし、見ているうちに、じんわりと不安がわいてきます。
魂が引き寄せられるような感覚に襲われるのです。
ぼうっとした靄(もや)のかかった幻のような白亜のたたずまいは、その周囲に、この世ならぬ雰囲気をまといつかせています。
死の観念を呼び覚ますような、白く淡い朧(おぼろ)な眺めとでも言いましょうか。

あの世へと通じているかのような雪山に、魂がいざなわれるような錯覚を、ふと感じてしまうのです。




雪が降っている? 今夜、雪山でかまいたちが荒れ狂うかもしれないな

男体山は、山頂がけむっていました。
雪が降っていたのではないでしょうか。
恋人たちに、ロマンチックな白い彩りをそえていたことでしょう。
しかし夜になると雪は、視界をさえぎり、聴覚をふさぎ、家屋を他から孤立させます。
そんな夜には、かまいたちによる殺人事件が起きても不思議はないな、と男体山を遠く見晴るかしてそんなことを想っていました。




死者の霊魂の声が聞こえないのは幸いだな……だから冬の夜の雪山はロマンチックなのだよ

その日は土曜日。
土曜の夜ともなると雪山の旅館やペンションは宿泊客でにぎわうでしょう。
『そうなると、やはり、今夜は……』
北にそびえる山嶺(さんれい)に目を留めながら、やはり、最後はそちらへと……下世話なほうへと関心は流れてゆきました。

古来より今にいたるまで、遭難や事故で多くの方たちが冬の雪山で亡くなっています。
その雪山がロマチックな恋人たちの聖地というのも奇妙なものですが、死者の霊魂の声を聞くことのない人々は、今夜も冬の雪山で熱い吐息を交わし合っているのでしょう。



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